明神山、高指山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:タクシー)

◆1月1日
立川(6:43) +++ 大月(7:39/7:51) +++ 富士吉田(8:35/9:23) === 籠坂峠(10:05) --- アザミ平(10:50/11:10) --- 大洞山(11:50/11:55) --- 三国山(12:50/13:05) --- 明神山(13:25/13:50) --- 高指山(14:55/15:15) --- 平野(15:45/15:55) === 富士吉田(17:05/17:26) +++ 大月(18:05/18:15) +++ 立川(19:10)

山日記

窓ガラスを拭きながら外を眺めて唖然とした。なんと外は大雪!
そのうち止むだろー!なんて思いながら大掃除を続けていると朝から降り続いていた雪は止むどころか昼を過ぎても降り続け、夕方になってようやくみぞれに変わった。

2005年は元旦から富士山を見に行こうと思っていた。「一年の計は元旦にあり!」昨年は3日に見たけどやっぱり富士山は元旦に見なけりゃー何もかも始まらない気がする。
計画では富士山包囲網の続きを行い、御坂山塊の鬼ヶ岳から王岳へ行こうと思っていた。
王岳の山頂でご来光を拝み、世界平和を祈りつつ、そして・・・これが・・・最も重要なのだけど王ホークスの優勝を願い万歳三唱!!!
王岳から初日の出を拝みながら王ホークスの優勝を祈る!もー、これ以上の願掛けがあるだろうか!と一人自分の立てた天才的な計画にうっとりと陶酔していた。
それがどうだ!どうなってんだ?せっかくの天才的な計画も自然の前ではまったくの無力、まさしく人知を超えた自然の力だ!
とてもじゃないがでかザックを背負って雪の中を歩くなんて、ましてテントを張るなんて・・・そんな根性はとても無いへたれホークスファンなのだった。
というわけで、あっさりと計画変更で日帰りで富士山を見に行くことにした。
もちろん中止したことは福岡にいるホークス狂の兄には内緒だ。一言でも言ったら最後「何んばいよっとかぁー!遭難してん行って来んかー!」と言うに決まっている。あー、言えやしない!

年越しそばを食べながら紅白歌合戦を見て、そして年が明けた。2005年だ!と酔いでボンヤリした頭で考えながら布団にもぐり込んだ。

朝3時に起きて準備をする。僕にとって本当の年明けはこれからだ!子供の頃の遠足みたいに妙に興奮して、たった二時間しか寝ていないのにバッチリと目が冴えている。
だけどさすがに睡眠不足が少ないのには勝てなかったらしく、電車に乗った途端に揺れが気持ち良くなって眠ってしまった。

目が覚めたのは中央本線・相模湖辺りだったと思う。車窓から外を眺めると一面の銀世界。まだ木々の枝一本一本にもしっかりと雪が付いている。
やっぱり雪景色は綺麗だー!と思う。これから見る富士山の姿を想像するだけで頭がキリリと心棒が入ったみたいに硬直化する。
電車が鳥沢辺りを通過するとき、車内に朝日が差し込んできた。2005年の夜明けだ!このご来光を山頂で拝めないのはとても残念だけど、こうして山に向かっている時にご来光を見るだけでそれは素敵なことに思える。

大月から富士急行線に乗り換えるといよいよ今年初めて富士山とのご対面だ!駅を二つほど過ぎると進行方向に姿を現した。
やった!2005年の富士山とご対面!んー、やっぱりスゴイ、まさに秀麗・・・というよりただもー、目の前の、その大きさが嬉しい!
車内にいる他の観光客も富士山の姿を目にしたのか?急にザワザワと華やいだ声が聞こえてくる。やっぱり日本人には富士山を求愛する精神が心の根底に潜んでいるのかもしれない。
昨年末は暖冬で富士山の7,8合目までしか雪が無かった。ところが昨日の雪で一気に5合目まで雪に覆われている。あー、早く山に登ってもっと、もっと近くで見てみたいと思った。
こうやって富士山に向かってクネクネと蛇行しながら走る電車のスピードがなんともモドカシク思えるのだった。

「えっ!、バス無いんですか?」富士吉田のバスターミナル。切符売り場で僕の前に並んでいた母子が声をあげた。「バカだねー、今日は休日ダイヤに決まってんだろー!」と思った。母子は「しょーがないわねー!」って言いながらタクシー乗り場に行ってしまった。
続いて僕の番になった「平野まで!」と言うと切符売り場のおねーさんが「すいません、今日は休日ダイヤで運行していて、平野行きは11時半までありません!」
「えーっ!、バス無いんですか?」今度は僕が悲痛な声をあげる番だった。「たしか休日ダイヤでも8:47発のバスがあるはずなんですが・・・」「今日は特別休日ダイヤなんですよー!」えっ、特別って!おねーさん、勝手にそんな運行ダイヤ作ってもらっても困るよー・・・

今年最初の山行は平野から石割山に登り、そこで真正面から今年最初の富士山とガチンコ対決し、その後、その感激を持続しつつユルユルと御正体山へ向かう予定だった。
それがまさか元旦から挫折?敗退?、富士山をこんな目の前にしてこのまま引き返すのか?かといってこの待合室で元旦早々3時間も待つなんて精神衛生上ヒジョーに良くない。第一、待っていたらとても日帰りでは戻ってこれなくなる。こんな富士山の近くまで来ているのにただ指をくわえて待つだけなんて憤死してしまいそうだ。

こうなったら作戦変更だ!カウンター横の長椅子に戻って地図を眺める。そうだ杓子山に行こう!あそこも富士山がとてつもなく素晴らしく見える山なのだ。「内野まで!」再びカウンターに並ぶ。
「内野行きの始発も11時半になります。特別休日ダイヤですので・・・」とまたも特別ってやつだ!
いっそのこと急行線で下吉田まで戻って杓子山まで歩こうかとも思ったがそれでは時間がかかりすぎて日帰りで戻ってこれそうに無い。
そうだ!富士山展望と言えばあそこだ!三ッ峠山だ。再びカウンターに行って尋ねると「冬は三ッ峠登山口までバスは行っていません!登られるのでしたら甲府行きに乗って河口湖から歩くしかありませんね」とのことだった。地図を見ると河口湖から三ッ峠山までは日帰りでは時間的にとても厳しい事が分かった。それは急行線の三ッ峠駅からも同じだった。
石割山も杓子山も三ッ峠山もダメ!これでは2005年の始まりはあまりに悲惨すぎる!
どこかにないのか?と更に地図を眺める・・・とあった!僕がこの山域で一番好きな森を忘れていた。それは三国山からアザミ平までの散策路だ。今は新緑や紅葉でもないがこの際贅沢は言ってられない。
再びカウンターで尋ねると御殿場行きのバスが一時間後にあった。
これで今日の山行コースは決定!籠坂峠から三国山、明神山、高指山を経て平野へ降ることにした。もちろん平野から富士吉田へ戻る最終バスの時刻も確認したがそれまでに何とか戻ってこれそうだった。


アザミ平まで登って来ると角取山の向こうからデッカイ富士山がフェードイン!
こう書くとトントン拍子で事が運んだように聞こえるが、実は途中で、地元のオジサンがやたら介入してきて富士山や三ッ峠山の話を語り始めるので考えがまとまらず、あっという間に一時間が経ってしまい、バスの発車時間ギリギリになってやっとこの案に落ち着いたのだった。
それにしても切符売り場のおねーさんもこの一時間のドタバタ劇に嫌な顔一つせず良く付き合ってくれました。

タイヤにチェーンを巻いたバスがガタガタと道を進んで行く。忍野八景付近ではカメラを構えて富士山の写真を撮っている人の姿が多く、また山中湖では意外と観光客がバスに乗車してきた。やっぱり元旦に富士山を見たいのは僕だけじゃないんだなー、これぞ日本の心、日本人の由緒正しき正月の過ごし方だー!と一人で悦に浸っているのだった。

籠坂峠で降りたのは僕一人だった。登山口へ向かうと四駆が一台停まっていて、そこからスノーシューらしい足跡が先に続いている。
積雪量は20センチほどでスノーシューの跡は表面から5センチほど沈んでいた。そこの上をツボ足で歩いてみると更に10センチほど沈み込んだ。これでも十分助かった。わずか20センチとはいえ新雪をツボ足で歩くのは大変だ。
ところが10分ほど歩いているとスノーシューの先行者に追いついてしまった。先を歩いていたのは男女二人のパーティーで挨拶すると「私達はユックリ行きますのでどうぞ先に行ってください!」と言われた。
まさか「いえいえ、後から付いて行った方が楽なので先にどうぞ!」とも言えないので渋々先に行くことにした。

アザミ平からの三ッ峠は真っ白に雪化粧

アザミ平 群生しているアザミも今は雪の下で冬眠中。
新雪をツボ足で歩いていく。大変だけど思ったほど歩けないといった感じではなく、むしろこれくらいの積雪量だったらスノーシューよりツボ足の方が楽なのでは?とも思えた。
誰も歩いていない雪道に自分の足跡を最初に付けるというのは爽快な気分だけどやっぱりツライ!雪の状態は、例えるなら蒲田駅ビル2F、CAFE・VANNIのシュークリームに似ている。つまり表面が硬くて、中がふわふわ柔らかい・・・ってローカルすぎて例えなっていないけど、昨日は川崎でも夕方からみぞれに変わったけれどこの辺りもそうだったんだろう。
歩くたびに表面の凍った雪が跳ね上げられ、パラパラと賑やか音を立て跳ね回っている。
アザミ平で木々が切れてやっと視界が開ける。
振り返ると角取山の向こうからずわーんと富士山がフェードインして来た。
やっぱこれだねぇー、平地で見るより山の上から見た方が空が広い。視界の中はデッカイ空とデッカイ富士山で埋め尽くされ、今にもはちきれそうだ。これだから山の景色はたまんない!
今日の富士山は山頂付近に雲が多かった。
「雲の形が富士山の表情を造る!」昨年の12月、大石峠で出会ったお爺さんが言っていた言葉を思い出させる景観だった。

大洞山へ向う途中からの富士山
アザミ平で富士山、黒岳、三ッ峠山それに杓子山を眺めながら歩くのは楽しかった。だけど再び樹林帯に突入し、また展望の無いツボ足が続くのだった。
この森はブナの木が素晴らしい場所で本当だったら歩いていて気持ち良い場所だけど、この時は、思うように歩けないモドカシサから「これで平野16:44の最終バスに間に合うのだろうか?」とその16:44と言う数字が重くのしかかって来て、額の汗にしか今の感情を移入出来ないでいた。


左:たまにでっけーブナの木があるとただそれだけでうれしー!
中:こんな森を歩いていきます 山というより森です
右:ヒメシャラのトンネルが続き、その下の新雪にはタイガーストライプ(虎柄模様)だぁ!

息を整えようと立ち止まった。ふと見上げた視線の先に紺碧の空を見つけた途端、何かに弾かれたようにグルリと景気が回りだした。太陽の光も風も全てを五感で感じ取れる、意識がふわりと空間に漂って行くように感じた。
まー明日も明後日も休みだし、最終バスに間に合わなくてもどーにかなるべぇ!と言う気持ちが焦っていた気持ちのスキ間から段々と浸透して来て和らいだ気持ちになっていった。

三国山へあと10分というところで前からやって来た男女二人のパーティーとすれ違った。お互いに新雪をツボ足で歩いた苦労が分かっているので挨拶が「ごくろーさま!」になってしまった。
久々に人と会ったので心強くなった。それになにより二人の足跡が残っているので少し歩き易くなったのは嬉しい。

森はブナの森からヒメシャラの森へ変わった。この茶色の潅木が五月には新緑のトンネルを作り、これもよかよか度100%の森なのだ。

やがて大きなブナが連立し始めると三国山山頂だ。連立するブナの木の大きさに思わず上を見上げてしまう。ただここは富士山が木々に間に見えるが展望は余り良くない。
じっとしていると手が冷たくなったのでサンドイッチを食べると直ぐに出発した。
先ほどすれ違った二人は明神峠から登ったらしく、これから向かう三国峠へは足跡は無かった。ということでまたまたツボ足開始! 
3・2・1〜ラッセル!ラッセル!


三国山山頂はブナの巨木が多い。空を見上げると雲が乱舞していました

籠坂峠から三国山までは緩やかな登り降りの道だったが三国峠までは少しだけ急勾配になった。そこを雪をシャカシャカと蹴散らしながら一気に降って行く。
「俺ってワイルド!俺ってブルース・ウィリス!」と一人ウヒャウヒャ喜んでいるとズボッと腰まで雪に埋まってしまった。なぜ?いくら吹き溜まりだとはいえ20センチしか雪は無いはずのに・・・そう言えば、ここの登山道は雨の浸食で荒れていたのを思い出した。どうやら穴に落ちてしまったらしい。
でぇ、ここで冷静になってユルユルと降りて行けば良いものを既に雪のワイルドさにすっかり魅了されていたので歯止めが利かず転びながらもやっぱりうひょーっと降りて行ってしまった。

明神山からの富士山 誰も居なかったけど足跡は多かった
僕の頭上にはデッカイ雲があります

ズームを引くと左の写真もこうなります。雲がデカイでしょ?
これってツバサ雲って言うのかな?
明神山(地図では鉄砲木ノ頭)は富士山の展望が良く、峠からも近いので、他にも登った人が多かったらしく、さすがに三国峠からはしっかりと踏まれていた。
久々の富士山とのご対面なので「待ってろよー!今行くかんなー!」と急いで登っていたら予想以上に長く、途中で息が上がってヘロヘロになってしまった。
明神山山頂は、これはまたまた富士山が素晴らしい。それに山頂は広いので開放感がある。時間が遅いので逆光ぎみなのは多少しょーがないがそのマイナス点を差し引いても十分に合格点の富士山の姿だった。
山頂に玉垣に囲まれた石祠がある。これが初詣になるのかな?と考えながら手を合わせようとすると、まったく世の中には罰当たりな奴がいるもので、誰かが食べたゆで卵の殻がいっぱい石祠の上に散乱していた。
殻を取り除こうとしたけど凍り付いていて離れない。手袋を外して爪で引っかいたがガリガリと歯に染みるような音を立てるだけで余り取れなかった。
まったく正月からフトドキな奴がいるなー!と鼻の穴を膨らませるしかなかった。

ズームアップすると上の写真もこうなります
だから何っ?って言われそうだけど・・・

高指山からの富士山 西の空の青に融けていきます
明神山から高指山への道には相変わらずトレースは無かった。なぜか?この辺りはいっそう雪表面がより硬く、足を跳ね上げるたびに南氷洋を行くゆく砕氷船のように靴のつま先で表面の硬い層を砕きながら歩かなければいけないのでとても疲れた。

高指山山頂には足跡はまったく無かった。
ここも山中湖越しの富士山の姿が見られてよかよか度100%の場所なんだけど誰も登って来なかったらしい。
でぇ、今日最後の富士山とご対面。
今はもうすっかり逆光になってしまって富士山全体が青いシルエットになり、青空の影にゆっくりとフェードアウトしてゆく。

なぜだろう?元日に富士山の姿を見ると今年一年、幸せな未来が約束されていそうに思える。
その未来に向かって階段を一番下の底辺から一歩一歩、ぐぐっと登っていく元気がむくむくと湧いてくる。

今年最初の富士山もこれで見納め!
足跡が全く無い雪の斜面にドカッと寝転んでみる。ダウンジャケットを着ているので雪の冷たさは伝わってこない。

My dear fujiyama ! 視線の先には夕暮れの青に柔らかく包み込まれていく富士の姿があった。



後日談:帰ってみると兄から年賀状が届いていた。葉書の裏を見て慌ててしまったとです。
     「王岳のご来光の写真、メールで送れ!」

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