谷川岳、仙ノ倉山 |
行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩) ◆10月6日 |
山日記
(谷川岳 編) やっぱり、すごいや! 樹林帯を抜け、ラクダのコブに立つと目の前にどっしりと一ノ倉沢の岩壁が屹立していた。 その瞬間、それまでどこかモヤッとしていた気持ちがスッとふっきれた気がした。 と言うのも、この三連休は八幡平もしくは涸沢へ行こうと予定を立てていた。それが三連休の天気は二日間しか晴れないみたいなので八幡平は断念(縦走には3日間の晴れが欲しい)、それじゃー涸沢だ!と意気込んだがいったいどうなってんだ!ムーンライト信州もさわやか信州号も予約が取れやしない。 そんなわけで金曜日の夜、会社から戻った時点でもまだ行き先が決まっていなかった。 こうなると夜行で行くのは諦めて早朝発で行くしかない!行ける高い山は?(低い山でも良いけれどやっぱり紅葉を見たい)と考えると北岳、鳳凰三山、八ヶ岳、谷川岳しか思い浮かばなかった。八ヶ岳は秋に行ったことがあるし、北岳は先月に行ったばかりなのでこうなると行き先は谷川岳しかない・・・連休を前に秋山だ!紅葉だ!と意気込んだわりにはこうしてなしくずし的に行き先は決まってしまったのだ。 行き先が決まったら急いで準備だ。 ビールを飲みながら電車の時刻を調べ、登山のコースタイムを調べ、そうしてやっぱりビールを飲みながらパッキングを終えると時間はすでに夜中の1時だった。 そして4時に起きると睡眠不足と言うより完全にまだ酔った状態なわけでとんでもない眠さだった。 温かな布団が恋しいし、いっそこのまま寝てしまうか?と誘惑に負けそうな頭にフッと浮かんだのが山のメール交換している人達のこと。今頃みんなどうしているだろう?夜行電車に揺られているのだろうか、ハイウェイを車で飛ばしているのかもしれない、登山口の駐車場で仮眠中かも、既にもう歩き出している人もいるかもしれない・・・などと思い浮かべていたら、とにかく僕も行かなきゃ!とにかく電車に乗ろう、駅に向かおう!どうにか睡魔に打ち勝つことが出来た。(朝の4時に起きることが分かっているのにシコタマお酒を飲んでしまうことがそもそも間違いなのだ) 今こうして目の前にそびえる一ノ倉沢の岩壁を見るのは何度目だろう?何度見ても素晴らしい。残り物には福がある!八幡平や涸沢へも行きたかったけれどこの選択も間違ってなかったのではと思わずニヤリとさせられたのだ。 |
何だか見た瞬間心から良かった思える時がある。谷川岳の選択したことの後悔と賛美。 ラクダのコブからの谷川岳はまさしくそんな感情が渦巻いた。 |
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ラクダのコルから先は岩場の連続。ドンドンと高度を上げながら振り返るとそこには白毛門、朝日岳が大きい。その山頂付近には真っ赤になった部分がいくつか見えるので、この様子では谷川岳山頂も紅葉しているのでないか?と期待に胸が膨らむ。 遠くには武尊山とその左に笠ヶ岳、至仏山が見える。多分周りの山々も紅葉が始まっているんだろうな!そしてその紅葉の中を何人ものハイカーがワッセワッセと歩いているんだろうな!とこっちも負けてはいられない気になる。 |
ラクダのコブはこんな感じ。樹林帯を抜けると一気に展望が開けてホッとする場所だ。 |
ほんの少しだけ紅葉が始まっていた。中腹はあと2週間くらい後が紅葉だろう。 |
オキノ耳、トマノ耳それぞれの山頂に人の姿を確認出来るところまで登ってきた。上を見るとそこは一面の草紅葉、ここで初めて秋に出会えた気がした。あの向こうにはどんな光景が広がっているのだろう?もう少しでてっぺんだ! |
トマノ耳(左)とオキノ耳(右)が並んで見える所まで登って来た。 |
上を見上げると岩と草紅葉が広がっている。岩がツルツルと滑って転びそう。 |
天神尾根道と合流するといよいよトマノ耳への最後の登りだ。 |
それにしても人が多い。 |
肩ノ小屋、それからオジカ沢ノ頭へのナイフエッジの稜線 |
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カメラだけ持ってオキノ耳へ向かう。 |
トマノ耳からオキノ耳へ向かう道、写真はイマイチだけれど実際はもっとすごかったのだ。 |
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トマノ耳へ戻ってみると先ほどはザックの置き場所を探すのも大変なほど混雑していたのに、今はガラガラに空いていた。坊主頭の高校生6人が「やべぇやべぇ!」と慌てて降りて行く。 やっぱり2時半が下山のタイムリミットなのか? 肩ノ小屋の横を通り抜け、万太郎山への縦走路へ突入。 前方にはお待ちかねの紅葉に彩られたナイフエッジが長く延びている。僕の前後に歩いている人影はなく、紅葉を楽しみながらのんびりと歩いていけそうだ。 |
まさしく錦のじゅうたん! オジカ沢ノ頭までのヤセ尾根はそんな感じ! |
谷川岳の紅葉はまったくの個性的だ! 山肌が緑の笹にびっしりと覆われているので紅葉した木々の赤や黄色が鮮やかに浮かび上がっている。緑と赤と黄色、その色鮮やかさはちょっとエグイほどのコントラストだ。 錦のじゅうたんのような緩やかなスロープを歩いてゆく。 夢のような道・・・ところがほんの数分前まで青空が広がっていたのに今は一ノ倉岳の方から流れて来たでっかい雲が太陽を隠してしまった。 遠くの山、至仏山や武尊山を見ると向こうはきっぱりと晴れていて、何でここだけ曇ってるんだ?といぶかしい。 紅葉に彩られたヤセ尾根を歩いてオジカ沢ノ頭へ。 ピークに立つと目の前には素晴らしい眺望が視界いっぱいに広がった。 赤や黄色の紅葉、笹の緑色、そこに草原の草紅葉の黄色が加わって、その彩が対峙する万太郎山まで長く続いている。これで太陽が出ていてくれたら何も言うこと無しなのだけれど、もうこれは絶対また来るしかない、太陽に浮き彫りにされた紅葉を今度は見るしかないな!とギリギリと歯軋りしてしまった。 |
オジカ沢ノ頭から降ってすぐのところに避難小屋があった。谷川岳特有の鉄で出来たカマボコ型の小屋で、中を覗くと1.5畳ほどの広さだった。そして今夜ここに泊まるのは学生らしい男性二人と夫婦二人の計4人みたいだ。1.5畳に4人かぁー、これは厳しいな!と思った、と同時に僕が今夜泊まる予定の大障子避難小屋も定員オーバーで泊まれないのでは?と心配になってしまった。 |
オジカ沢ノ頭の少し手前付近、やっぱり紅葉が美しい。 これで雲が無ければ・・・ |
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意外とやれそうでやれないこと。それは地図のコースタイムの倍の時間で歩くこと。 谷川岳(トマノ耳)から大障子避難小屋まで地図のコースタイムで2時間、そこを倍までとはいかないが3時間かけてノンビリ歩くつもりだった。雲は多いけれど何しろこの素晴らしい展望、これで道草しないでどうする、早く歩いてはもったいない! しかし悲しいかな、のんびり歩いているつもりでも大障子小屋はドンドンと近づいてくる。 結局、コースタイム通り2時間で小屋に着いてしまって、ゆっくり歩くことって本当に難しい! 小屋の中を覗くとそれまでざわめいていた会話がピタリと止んで10人の視線が一気に僕へ突き刺さって来た。 「テント、テント、テ・ン・ト・ありますか?」いきなりの質問、そしてその答えを待って小屋の中はシーンと静まり返った。 小屋に泊まれなかった時の用心にテントは持って来ていた。でここで本来の僕なら「テントは持って来てません!」と一発フェイントをかますのだけれど、この時は皆さんの視線がもう痛いほど必死だったのでマジになってしまったと言うより、とにかく可笑しくって、今まで小屋に入った途端にこんなに注目を浴びることなんて無かったから、もう素直に「テントありますよ!」って答えてしまった。 「テントある!テントあるってぇー!やっぱりテントが良いよね!」返事した途端に小屋にざわめきが戻ってきた。かってに決めんなよぉー!テントはあるけど面倒なので小屋に泊まります!なんてもう絶対に言えない雰囲気だ。 でも正直に言えばテントの方が好きなのだ。他人に気を使わなくて良いから気楽だしね。 小屋のすぐ横にテントを設営した。本当は数メートル離れた草地にテントを張ろうとしたのだけどそこには汚れたティシュが散乱してたので止めてしまった。んなろーっ、雉撃ちはもっと離れた場所でやってくれ! |
この稜線上で一番大きい大障子小屋はすでに登山者でいっぱい、小屋のすぐ横にテントを張った。 まだ雲があるところが谷川岳、その右のピークがオジカ沢ノ頭、右には川棚ノ頭と本谷ノ頭の展望が広がる。 |
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本当にここであっているのか? 水場へのプレートに従って下りて行くとそこは涸れた小さな沢だった。藪って歩きにくく途中で道を間違えたのでは?と思っているとこの沢は伏流らしく途中から水が湧き出していた。谷川岳から平標山の間で水場はここだけなのでまずは水を確保出来て一安心だ。地図では水場まで10分になっていたけれど小屋から水場まで降って5分、登って7分かかった。 さっきまで頭上を被っていた雲が取れた。太陽の光に照らされるとやっぱり嬉しい。ホットウイスキーを片手に暮れ行く景色を眺めるのは本当にたまらない気分だ。 オーッ晴れた晴れた!小屋から人が出て来ては歓声をあげる。中にはもうすっかりベロベロに出来上がっている人もいてにぎやかになった。 「テントは持ってないけれどお酒はいっぱい持って来ました!」小屋に昼の12時に到着してそれからずっと飲んでいたらしい人もいた。僕もお酒は好きなので気持ちは分かるけど饒舌すぎてうるさいのには参った。酔っ払らったおっちゃんとの会話は終始押されっぱなしだ。 それで夕日は?! 万太郎山の向こう側が真っ赤になっている・・・だけどそれだけでどうしようもない。 万太郎山の向こうにははたしてどんな景色が広がっていたのか?明日は確かめてやるぞ! |
小屋からは関越自動車道の明かりがすぐそこに。 |
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夕方6時になると小屋ではそれまでがなり合っていた声がピタッと止んで静かになった。小屋の中の人達は早くも寝てしまったようだ。僕もそれからしばらくはラジオを聴いていたけれど7時になるともう眠くて起きていられなくなった。 夜中、風の音で目が覚める。時計を見ると深夜0時。 寝る時はほとんで無風だったのが今は一変し、強風となってテントを大きく揺らしていた。 テントの天井が大きく歪み、壁はドンドンと体を叩く、コッヘルやガス缶がポンポンと飛び上がってはコツコツと音を立てる。子供の頃、台風が来るとワクワクしていた。今もそのマゾッ毛は健在らしくそんな状況に思わずワクワクしてしまう。まぁ、これくらいの風ではテントがつぶれないことを知っているから気持ちに余裕があるからだろうけれど。 騒がしくてこのまま朝まで眠れないだろうなー、でも5時間は眠っているから大丈夫だな!などと考えていたらいつの間にか眠ってしまった。 仙ノ倉山 編へ続く |
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