丹沢山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩)

◆5月24日
登戸(5:29) +++ 新松田(6:47/7:14) === 西丹沢(8:25/8:35) --- ゴーラ沢出合(9:20) --- 檜洞丸(11:30/11:40) --- 臼ヶ岳(12:25/12:35) --- 蛭ヶ岳(13:40/13:50) --- 丹沢山(15:40/15:50) --- 堂平(?) --- 塩水橋(17:35/17:40) --- 札掛(18:30) --- ヤビツ峠(19:45/19:50) --- 蓑毛(20:25/21:10) === 秦野(21:28/21:34) +++ 登戸(22:20)

山日記

山登りを始めた頃、雲取山から甲武信ヶ岳まで歩いたがその時の印象は「山頂からの景色は良かったが山と山を結ぶ途中の登山道は歩いていてつまんねー!」だった。
ところがである。今年の五月連休に飛竜山から雲取山まで歩いてみると牛王院平、狼平など樹林の素晴らしく良い場所があって「あれっ、こんな場所あったんだ!」と見直してしまったのだ。
そういえば数年前、根石山荘で一緒になった男性が「僕かぁー、晴れだけでなく、例え雨が降っていても山に登るね!雨に濡れた風景も良いんだ!特にこの八ヶ岳は。。。」と立松和平調で語っていたのを思い出した。その時は「なに分かったようなこと言ってんだ、このタコスケ!」と思ったもんだが今は何となくタコスケの気持ちが分かるような気がする。
と言うことはつまり、昔と比べて僕の感受性が豊かになったと言うか?目が肥えてきたと言うか、ドーパミンの分泌が良くなったというか、なんだかんだ言っても。。。つまり山ヤとして少しは成長していたのだ。エッヘッヘッ!
チンケな山ヤからせめて半チン山ヤに脱皮するためこの機を逃さずに丹沢に森を見に行き、今じわーっとにじみ出てきたドーパミンを一気にドバドバ状態にまで加速してしまおう。
どうせこの時期、澄んだ青空になることは余り期待できないので最初から展望は望まず新緑てんこ盛り状態の森を見ることを主題とした山行にしよう。
檜洞丸から丹沢山まで本当はテントを持ってのんびりと登りたいのだけれど前回の山行でテント禁止だと知ったので今回は頑張って一日で縦走することにした。

登戸で小田急線に乗り換える。電車はドンドンと都心を離れて行く。駅の到着するたびに車内の乗客はドンドンと減って行くのはいつもの光景と変わらない。違っているのは山登りの姿をした人がドンドンと乗り込んで来ることだ。電車が秦野に到着する頃には車内は登山靴を履いた客ばかりになってしまって登山専用列車と行った雰囲気である。この駅で少し減るだろうと観察していると誰も降りない。それじゃ次の渋沢で降りるだろうと思っていると渋沢でパラパラと数人が降りた。んってことは。。。と思っていると次の新松田に電車が到着するや否や乗客は一斉に電車を降りた。僕も慌てて降りるとホームは登山者で一杯であふれそうである。それでまたその足音がスゴイ!ホームにいるほとんどの人が登山靴を履いているのでその靴音はドカドカとすごい迫力だ!、そしてそのドカドカが一斉に階段を登り始めた。中には走り出した人もいるのでドカドカは更に迫力を増した。
駅前の西丹沢行きバス停は既に長蛇の列だった。拡声器を持った人が「バスは増発しています!慌てないで順に並んでください!」とがなりたてる。


檜洞丸バイケソウの森 今回はツツジよりもこの景色を見に来たのだ。この元気には他のどんな山もかなわない!
僕もどうにか3台目のバスに乗ることが出来た。バスは座席が埋まると発車するので必ず座れるみたいだった。座席に座ってバスを発車を待っていると次の電車が到着したらしく、駅の方からドップラー効果ドカドカ音がすごい迫力で近づいて来た。

バスが終点の西丹沢に近づいた。寝ぼけ眼でウツラウツラしていると周りの人が「わぁーすっげー!」と声をあげた。窓から外を見ると路肩に延々と車が駐車している。「まぁー、シロヤシオの開花時期はしょうがないわね!」と人が言っているのを聞いて「この人の多さはシロヤシオを見に来たんだ!そうなんだ。」とここで初めて気が付いた。そう言えば昨年5月4日に畦ヶ丸に行った時にシロヤシオは開花直前だったから、今が丁度開花の時期なんだろう。(後で調べると開花時期は5/中〜6/上と言うことだ)

バスを降りると休憩所は人でごった返していたので少し離れたベンチで海苔巻を食べ腹ごしらえをすると直ぐに出発。
人が多いので落ち着いて歩けない。と言うのも僕は歩くのが遅いのですぐ後ろに人が溜まってしまう。道を空けるために、いつも後ろから聞こえる足音に神経質になってしまうのだ。上り始めて40分でゴーラ沢出合に着いた。ここでも人が多く100人位の人が休憩していた。
ここでは休憩せずに歩き続けると少し登った所で渋滞に巻き込まれた。いくら歩くのが遅いとはいえ渋滞となると止まらなければならない。ここで歩いたり、止まったりを繰り返した。登山道が九十九折になった所でふと下を見ると僕の後ろには50人ほどに人が一列になって続いている。この分だと益々人の列は長くなりそうでため息が出る。で上を見ると僕の前は20人ほどの人の列で先頭には70歳位だろうと思われる男性が歩いていた。
10分ほど登っていると登山道脇に珍しい花が咲いていた。名前は分からないが10cmほどの大きさで全体が透けるように白い。写真を撮ろうと思ったがこの行列を一旦離れると再び入るのは難しそうだし、それにここでなくてもどこか先の方にまた咲いているのではないかと思って歩き続けた。(結局、この真っ白い花はここにしかなかった)
更に止まったり歩いたりを10分ほど繰り返していると急にドンドンと進むようになった。何でだろうと思っているとさっき見えた70歳位の男性が道の脇で休憩していた。つまり渋滞の原因はこの男性で男性の前には誰も居なかったのだ。こんな事なら僕の前を歩いていた20人を強引にでも追い越せば良かったと思った。

シロヤシオの花 檜洞丸から丹沢山までの間、山を飾っている
しばらくは自由に歩けたがしばらく歩くとまたしても渋滞になった。渋滞の原因はなんてことは無いちょっとした岩の出っ張りだった。何でこんなんで渋滞するのだろうか?と思う。
そして最後の渋滞箇所がバイケイソウの森に前の木の階段だ。階段を登りきった所にシロヤシオの大きな木(しかも満開)があり、満開の花を皆が立ち止まって見たり写真を撮ったりしているのが渋滞の原因だった。でもまぁー、皆さんツツジの花を見に来たのだからこんな渋滞は仕方が無い。
バイケイソウの森には木道が2本通っているのでスムーズに歩けるがこの二本の木道が合流した先はまたまた渋滞。

青ヶ岳山荘の前でおにぎりを食べていたら鹿がこっちを物欲しそうに見ていた。
木道を歩いていると前から若い男女二人が降ってきたが木道ではなくバイケイソウが生い茂る地面をゴソゴソを歩いていたので「そこ歩いちゃだめですよ!」と注意した。そうしたら僕の後ろを歩いていた女性が「木道の上を歩きましょう!」と何か交通標語を読んでいるみたいな言い方をしたので色んな言い方があるなと笑ってしまった。そういえば。。。たまに山でマナー違反の人を注意するのにいきなり「こらっー!」って怒鳴りつける人がいるがあれは良くないな。あれでは注意された人が気分を悪くしてせっかくの楽しい山登りがつまらなくなってしまうのではないだろうか?注意された人も知らないでやっているのだろうから「なにも、そんなに怒んなくても。。。」と思ってしまう。この木道を外れて降りて来た人の気持ちだって分からないではない。こう次々と切れ目無く人が登って来たらいつまでたっても降りることは出来ないのできっと待ちきれなくなってしまったのだろう。
それにしてもこのバイケイソウというのは深緑の葉をハイキーピングで糊付けしてアイロンをビシッとかけたように鼻筋じゃなくて葉脈がハッキリと通っているので春の丹沢植物推進協会ではファイト一発リポビタンD的存在だ。そのバイケイソウが山頂一面にワッセワッセとひしめき合っているのだから山全体がなんだかこう夏に向って元気いっぱい色めき合っている感じだ。
バイケイソウの森を抜けて山頂までの道も何とも良い感じ。ぶなの木、ツツジ、その他名前は分かんない木々の一つ一つが春霞で展望は良くない山を精一杯飾っているのだ。
深田久弥の日本百名山では「檜洞丸はうっそうと樹木に覆われた秘峰」と言っているが昔は登山道が無かったのだろうか?そうするとこの景色を見られなかった久弥氏もずい分損をしたな!

檜洞丸山頂はとにかく人が多かったので青ヶ岳山荘まで降りて小屋の前で昼食にした。山の名前が檜洞丸なのに山小屋が青ヶ岳とは一体なぜなんだ?と思ったがこの先まだ長いのであまりのんびりと悩んでも居られない。オニギリを2個食べると直ぐに出発した。
檜洞丸を過ぎると急に人が少なくなった。「なんだかやっと落ち着いて山歩きが出来る!」とゆったり気分で木々を眺めながらの散策となった。


臼ヶ岳から蛭ヶ岳へ向う途中、古木と新緑の競演
臼ヶ岳山頂で檜洞丸を歩き出して直ぐに僕を追い越して行った60歳位の男性、源さん(仮名)、それからここに着く直前に追い越した50歳位の男女、芭太郎&しのぶさん(仮名:夫婦では無いが不倫の仲でも無い!らしい)と休憩が一緒になった。三人共、檜洞丸→蛭ヶ岳→丹沢山→塔の岳→大倉と縦走すると言うことだ。源さんは僕と同じバス、芭太郎&しのぶさんはタクシーで西丹沢まで入ったそうだ。
あのー!白状します。今回の目的は森を見るだけれど、どこか心の隅っこには「丹沢主脈一日完全制覇!」「やったぜ!山ヤはやっぱ一日縦走!」とエコー付きで叫びたいような自慢話にしようとした自分がありました。しかし実際に歩いてみると僕よりずっと年配の人が元気に歩いているのを見て「こりゃ!結構みんな一日縦走しているじゃん!」「こんなんで自慢げに山行記を公開していたら返って恥ずかしいべ!」と神奈川弁で胸を撫で下ろしたのでした。

これはヤマツツジだと思う アカヤシオよりも朱色なので。アカヤシオももちろイッパイ咲いていた
しのぶさんが僕に「あなたはどこまで行くのですか?」と聞いてきたので「僕は丹沢山から堂平に降ります!」と答えようとしたのだけれど「もう私達は運命共同体!一緒に大倉まで完走しましょう!」みたいな雰囲気がジトーッと充満していたので仕方なく「僕も大倉までです!」と答えておいた。どうせ途中でこの3人はペースダウンしてしまうだろうから離れ離れになってしまって分かりっこないと思ったのだ。
蛭ヶ岳山頂もガスっているので展望は全く無かったがバイケイソウが群生していてイヤハヤなんとも良い雰囲気のてっぺんだった。
源さん、芭太郎&しのぶさん、僕の4人は歩くペースもほぼ同じで休憩もキッチリ10分すると歩き出すので4人が抜きつ抜かれつしながら歩くことになった。
しのぶさんが「こんなに長い縦走は休みすぎると返って疲れるのよねー!」の言葉に「そうだそうだ!」と僕も思いつつ「しかし全然ペースが落ちない!なんてオババだ。スゴイ!」と感心させられてしまうのだった。

ガスが取れた不動ノ峰は一面の笹原になっていて「やっぱここにテントを張ったら気持ち良いだろうな!」と思いながら歩いているとテントが二つ有って、その横でシートに寝転がっている登山者の姿が見えた。「畜生!気持ちよさそうだ!」正直言って羨ましかった。考えたら今までこの不動ノ峰付近を歩く時は決まって天気が悪かったのでこんなに開放的な場所だとは思わなかった。
芭太郎&しのぶさんがこの原っぱで休憩に入った。僕は「しめしめ、今が引き離すチャンス!」と歩き続けたが丹沢山への登りを登っていると流石に大腿四頭筋は引きつり、心臓はバッコンバッコンと音を立てる。

そうしたら後ろからやって来た源さんにあっけなく追い越され、あれよあれよという間にぶっちぎりられてしまった。この人もなんというパワフルなオッサンだろうか!
丹沢山頂には木のテーブルが四つあり、10人ほどが休憩していた。源さんの姿は無かったのでもう塔ノ岳へ向かったらしい。中にはチーズをつまみにビール飲んでいる羨ましくなるような人もいる。今日はみやま山荘に泊るんだろうな。
なんだかこんな雰囲気ってたまらない。山小屋、できればテント(更にできれば冷たい沢の水付き)に泊まって目の前には夕日に沈みゆく山々の風景、手にはシェラカップのウイスキー。。。たまんねーすぅ!と身もだえしている暇は無い。「次は山小屋に泊まろ!テントに泊まってやる!」と思いつつ、堂平を目指して降って行かなければいけない。

蛭ヶ岳山頂のカエデの巨木 小屋の周りまでビッシリとバイケイソウに覆われている
堂平は関東ぶなの森百選に選ばれていると(多分?)と言うことなので今回の森を見に行く山行の最後は「もうこれっきゃない!」場所になるに違いない。歩き出そうとすると、そばにいた女性に「宮ヶ瀬へ降りるんですか?」と声をかけられたので「そうです!」と返事すると「あーそうですか!」と言ってそのまま蛭ヶ岳への登山道を歩いていってしまった。「なんだ?話はこれで終わり?」「まだ話の途中では?」宮ヶ瀬への登山道は何か問題でもあるのだろうか?なんだかすごく気になる終わり方に悩んでしまった。

初めて来た堂平の印象は。。。正直に言って。。。他のブナ林と比べて特に良いという感じはしなかった。きっとすでに日が傾きかけて少し光線が弱くなっていたので冴えない景色に見えたのだろう。


棚沢ノ頭付近で見たふうりんツツジ こんなに小さいツツジもあるんだな!
堂平からは林道をひたすら歩く。塩水橋からも県道をひたすら歩く。アップダウンは無い道なので楽だったが、たまにツッパリ兄ちゃん風の車が猛スピードで走って来るので危なくてしょうがない。札掛を過ぎた辺りで日が落ち真っ暗になってしまった。道路は薄ぼんやりと見えるのでライトをつけなくてもどうにか歩けた。ただ車の音が聞こえると存在表示のために慌ててライトをつけた。
青山荘の前を通るとガラス越しに明るく電灯が点る部屋の中で数人の女性が談話しているのが見えた。なんだか暗闇の中をひたすら歩く自分とは別世界のように思える。富士見山荘のトイレに灯りが点いていたのでその中でやっと休憩することが出来た。
再びヤビツ峠を目指し歩き出す。峠から富士見山荘まではこれまで何度も通ったことがある道なのにこうして歩いてみるとやけに長い。ヤビツ峠のトイレにも電気が点いていた。漆黒の闇の中にポツンと点るオレンジ色の電灯が何とも心強い。それにここまで来たら後は蓑毛までの一時間弱を歩くだけなので気分的に大分楽になった。
山道を降りだして直ぐにヘッドライトの光がフッと消え入りそうになった。あれ!もしかして電池切れ!!!そう言えば前回、和名倉山に行った時に使って、そのまま持って来てしまっていたのだ。このまま消えてしまったらどうしよう!ためしにライトを消してみるとそこはもう真っ暗な闇が広がるだけで顔の前にかざした自分の手のひらでさえ見えなかった。これではライト無しでは一歩も歩くことは出来ない。降る途中で電池が切れてしまったらどうしよう!木々の間から秦野の夜景が見える。あー後少しで着くのに何てことだ!「まだ峠から歩き出してまだ5分も経っていない。いっそ行き返して県道を歩こうか」とも思った。しかし僕は蓑毛から峠までバスで来た事は無く、どんな道か知らない。それに県道を歩いたのでは時間がかかってしまい、最終バスに間に合わない可能性も考えられる。。。と考えてやはり登山道を降りることにした。
いつ電池が切れるか分からない恐怖に自然と駆け足なって降って行った。この道は何度も歩いた道であるのにライトの光に照らし出された狭い箇所しか見えないので、どの辺りを歩いているのは見当がつかない。石にけつまずいて何度も転びそうになった。それでも歩調は緩めずに歩いた。
やがてサラサラと水の音が聞こえた時には「やった!もうすぐだ!」と思った。そして川を渡る小さな橋が見えた時には安堵感で一杯になった。
橋を渡ると細いが舗装してある道に出た。「ギリギリで電池はどうにかもったよー!」と息をついた。割烹料理屋のところまで来ると道に街灯が点っていたのでようやくライトを消すことが出来た。

丹沢山から堂平に降る木道の階段
蓑毛のバス停は公衆トイレの明かりと自販機の明かりだけが暗闇にコウコウと明るかった。バスを待つ間、最初はトイレの入口付近に座っていたのだけれど行き交う車に乗っている人の怪訝そうな視線がどうも僕に注がれるようなのでそこに居づらくなってしまった。そこでトイレの中に入り洋式トイレの便座の上に腰掛けて待っていることにした。
四方を囲まれた薄暗い中に居ると色んなことが頭を過ぎる。「そう言えば、途中まで一緒だった源さん、芭太郎&しのぶさんは無事に大倉に着いただろうか?」「もしかしたら、もうとっくに家に着いて美味いビールでも飲んでいるかもしれない」そう思うと便座にポツンと座っている自分の姿がとても惨めに思える。

いつもそうなんだ!最初は森を。。。新緑を。。。見に行こう!と白い歯キラリの爽やかな系山登りのつもりがどこかでズッコけて結局カッコワリ−山行になってしまうんだよな!
それにしても、もうそろそろバスが到着しても良さそうだけど???まさかまた平日と休日の時刻を見間違えたことってことないよな。。。まさかな!

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