丹沢山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩)

◆3月24日
登戸(5:49) +++ 新松田(6:47/7:14) === 西丹沢(8:25/8:45) === ゴーラ沢(9:35/9:50) --- 檜洞丸(11:50/12:05) --- 臼ヶ岳(13:45/13:55) --- 蛭ヶ岳(15:10/15:20) --- 丹沢山(17:00/17:10) --- 塔ノ岳(18:00/18:10) ---堀山(19:05) --- 大倉(20:00/20:08) === 渋沢(20:20/20:28) +++ 登戸(21:24)

山日記

「おまっとーさん!」
今年は雪が少なかったがとうとう丹沢にまとまった雪が降ったらしいのでさっそく出かけてみることにした。

夢を見ていた。場面は電車の座席に座りぼんやりと外を眺める僕の姿。発車を知らせるベルは鳴り続けてるのに電車は一向に発車しない「これどうなっとんの?」とぼやいたところでようやく目が覚めた。
目覚まし時計が4時を指していた。最近は仕事が忙しくて毎日4,5時間の睡眠しか取れていない。昨夜も残業で自宅に着いたのが11時過ぎ、風呂に入って食事して寝たのが一時半だった。

寝ぼけ眼でどうにかパッキングを終え自宅を出る。小田急線に乗ってみると乗客が多くて座れそうにない。電車の中で少しでも眠っておこうと考えていたがそれは甘かったようだ。この分では新松田まで立ちっぱなしかな!と思っていたら町田を過ぎたあたりで人が少なくなったのでようやく座れことが出来た。
座った途端に爆睡、ハッと気がつくと!ヤベエ、ヤベエ!秦野だった。
新松田でバスを待っていたら前に並んでいた30歳前後の男性に話し掛けられた。この男性は丹沢に何度も来ているらしいのだが塔ノ岳や丹沢山には一度も登ったことが無く、人があまり歩かないような不老山や高松山などばかり歩いているということだった。今回も玄倉でバスを降りて山神峠まで行くということだ。
僕が歩いたことが無いコースの話は面白く、バスの中でも隣に座って話を聴いていた。ところがバスに乗って30分くらいからバスの揺れが段々と心地よくなって無性に眠くなってきた。そういえばバスの中でも眠っておこうと考えていたのだったが話しにつられてそのことはすっかり忘れていた。だけど体は正直だ、段々と眠くなって目を開けているのがつらく話に相槌をうっているがいつの間にか上の空になってしまっていた。
男性が玄倉で降りたので西丹沢に到着するまで少しでも眠っておこうとしたがなんだか急にムカムカと吐き気がして脂汗がジットリと額ににじんできた。
結局一睡も出来ないどころか、西丹沢に着いてバスを降りても気分が悪く20分程休んでからやっと歩けるようになった。


ゴーラ沢の少し手前に三椏(みつまた)が群生していた まだ色の少ない景色をパッと彩っている
こりゃ最悪のコンディションだ!眠いし吐き気はするし歩き出しから最悪の日だ!
西丹沢からゴーラ沢への道は最初は登りだがしばらくすると平坦な道になり、のんびりと体を回復させながら歩くのに丁度良い道だ。そのせいかゴーラ沢に着く頃にはいくらか気分も良くなり、朝食に買っておいたいなり寿司も意外とすんなり食べることが出来た。更に沢の水で顔を洗って風に吹かれながら防砂ダムの上に覗いている檜洞丸を眺めていたら自分でも驚くくらい急速に元気になっていった。
待たせたな!ここからは行くぜぇ!と歩き出す。
あーずい分時間をロスしてしまった。ここからは気合を入れつつ、飛ばすぜ!と歩いているそばから後ろから来た人に次々と追い越される。
相変わらずの亀足だよー!まー体調が悪かったからしょうがねーかぁ!と自分を慰めていたが中年のおっかさんに追い越された時にはさすがに情けねー!と思った。
(いつも丹沢で思うのだけど、僕はほぼ地図のコースタイム通りの時間で登っているから自分ではそんなに遅くはないと思うのだけど人にドンドンと追い越されている。他の人、大半の人はコースタイムより短い時間で登ってしまうのだろうか?んー、分からん!そのうち出口調査する必要がありそうだ。)
それにしても暑い、気温は低いが太陽の日差しに照らされて暑くて汗が吹き出てくる。フリースを脱いでアンダーシャツだけになる。ちょっとカッコワリーがしょうがない。
30分ほど登り展望台で一休み。ここからは富士山が良く見える。ゴーラ沢から展望台までの間では富士山は畦ヶ丸の丁度陰になっていたがここではチャ−ンと見えるので一気に疲れが吹っ飛ぶ。富士山は疲労回復の特効薬!なのだ。
展望台から急に登山道の雪が多くなる。ちょっと歩きづらいがいつもと違った風情、これもまた楽しい。
木道が現れるあたりからブナの木が連立するようになり「いいな、いいなー檜洞丸は!」とウフフ顔の出番だ。僕は特に「ブナの木・愛好家」ではないがそんな僕でさえここのブナの森は万緑でも落葉でもいつ見ても良いなー!と思ってしまう。

展望台からの富士山 右下の山が畦ヶ丸

あと2ヶ月もすればバイケイソウの森に変身してしまうのだろう
檜洞丸山頂の積雪は20〜30センチだった。風は無くて快晴。5,6人の登山者が昼食中だった。
木のテーブルに座ってオニギリを食べたが山頂はあまり展望が良くないので直ぐに出発する。主稜線へのトレースがもし無かったら犬超路を経由して西丹沢へ降りようと思っていたが、どうにかトレースがあったので予定通り蛭ヶ岳方面へ歩き出す。
木々の間に白く雪化粧の蛭ヶ岳が見える。雪が積もった蛭ヶ岳には一体どんな景色があんだろ!とワクワクする。ポツポツと雪の中に続いている足跡の先に早く行ってみたい!
雪に残るトレースはどう見ても少人数の足跡で雪の乱れ具合から二人かな?と推測した。一人目の足跡を二人目が忠実に踏んでいるような感じだ。足跡が少なくて少し不安、途中で途切れたらどうしよう!と心配になる。
降雪量が少ないので最初は先に付けられた足跡に関係なく雪を蹴散らして歩いていたがたとえ20センチでもラッセルするのは非常に疲れることが分かった。それにいきなりズボッと股下まで埋まってしまい心臓に悪い。僕も足跡を忠実にトレースして歩くことにした。
それにしても先行して歩いている人はチャ−ンと夏道をトレースしている、まったくエライ!。登山道は意外とピークを巻いていたり、急に曲がっていたりしているが迷うことなく歩いているようだ。僕は雪の無い一年前の5月に歩いたがさすがに細かい所までは憶えていない。誰かは分からないけど先行者がいてありがたい。
金山谷乗越から臼ヶ岳までの登りはなだらかなんだけど距離が長い。まだか、まだ着かね−か!と思いながら登った。
そしてやっとたどり着いた臼ヶ岳山頂からは蛭ヶ岳、塔ノ岳の展望が良く、雪を覆い白くなった丹沢の山々もも良いなー!と思った。
だけどもそれ以上に。。。遥か遠くの塔ノ岳の姿に「あんな所まで歩くんかぁー!」とあまりの遠さにぐったりするのだ。そんなわけで臼ヶ岳は肉体的にも精神的にも非常に疲れる山なのだ。

コースタイムを記録しようとして時計を見た途端に焦ってしまった。前回は雪が無かったのでコースタイム通りの時間で歩けたが今回は2割増の時間がかかっていた。歩いていて雪が有ることがそんなに大変ではなかったので前回と同じくらいの時間で歩いているつもりだった。
だけどこんなに時間がかかっていたらとてもじゃないが今日中に塔ノ岳まで行けやしない。
着けなかったら途中の山小屋に泊らなければならないが蛭ヶ岳や丹沢山の小屋は営業しているんだろうか?土曜日なので営業しているとは思うが「もし?」と考えると急にビビリ始めた。おまけに急に灰色の雲が空を覆い強くなった風が冷たい。


檜洞丸山頂手前からの大室山
人間、焦っていると日頃の道徳心、自然愛護心なんか忘れてしまうだよなー。最初は雪に残った足跡の下に何か植物が見えているとそこを除けて歩いていたが「少しでも早く!」と焦りだすと気にしていられなくなってしまった。「ごめんよー!」と思いながら雪の下に露出した植物を無情に踏みつけてしまった。今回だけはカンベンしてな!
蛭ヶ岳への急斜面。これほどトレースのありがたみを感じた事はなかった。積雪は20,30センチしかないがこれをラッセルしながら登るのは大変だ。本当に先行している人はエライぞ!
先行している人に途中で追いついたら挨拶しようと思っていたが一向に追いつく気配は無かった。前方に姿も見えない。このトレースは新しそうだけど今日つけられたものでは無いのだろうか?とにかく、あんがとうよ!

檜洞丸山頂付近はぶなの木が良い感じ
蛭ヶ岳山頂では雪景色を絶賛する予定だった。だけど完全にガスっていて展望無く、おまけに誰も居ない、おまけに風が冷たくて寒い。こりゃどうしても落ち込むしかない。これがチビまるこちゃんだったら画面に縦線が入っているぞ!もう。
蛭ヶ岳は行程のちょうど半分くらいなのでここまで来ると気分的にずい分楽になるのだけど今はそんな気分にはなれなかった。雪に埋もれたテーブルで寒さに震えながら一人パンをかじっていると「とにかくこの山行を直ぐにでも終わらせたい!」という思考で心も固まったままになってしまった。
丹沢山へ向かおうとして小屋の東側に行ってみると犬がワンワンと2回吠えたので「蛭ヶ岳山荘って一見静まり返っているけど営業してんだ!」と思ったら急にオレンジ色の安堵感に包まれた。なんてったって最悪の場合の泊まる所を確保出来たのだ。
さらに安心したのは丹沢山からこっちへは多くの人が歩いたらしく、ここまでか細かったトレースは太く、ハッキリしていた。やっぱり他の登山者が居るっていうことは本当に心強い。さっきまでは歩けるところまで歩いて小屋に泊ろうと思っていたが、急にムクムクと元気が出て「もーこれは完走するしかないっしょ!」と自分でも呆れるほど元気が出てきた。
そこへ丹沢山方面から3人の女性が登って来た。檜洞丸を出て今日初めて会う人だ。この女性たちは昨夜、新潟から来て今朝早く登り始めたらしい。新潟のおっかさんハイカーも元気なのだ。
朝一番の小田急線に乗ったら満員なので最初「都会の人は休みでも朝早くから働くのか?」って思ったらしいが車内があまりの酒臭く、爆睡している人ばかりなので「まさかこの人達、皆、朝帰り!ということが分かった途端に呆れた」って笑っていた。
歩き出すと背中から「今からまだ歩くの?もー遅いし、ガスっているから今日はここに泊ったらどう?」と言う声が聞こえてきたが今の僕は臆病という額縁から一歩足をはみ出したオチョーシ者だったので「ケェッ、楽勝、楽勝!」とウヒャウヒャ笑って降っていったのだった。

檜洞丸山頂から蛭ヶ岳へ歩き出す
蛭ヶ岳を降っているといくつかのパーティーがワッセワッセと登ってくる。中高年の登山者ばっかりでほとんどの人が今朝、大倉から登った人らしいかった。「こんな雪の日に良くまー、大倉からここ蛭ヶ岳まで登ってきなー!」と感心した。でも考えたら今からその大倉まで歩く僕って。。。結構、ビシバシエライ奴かもしんない!と自画自賛のブフフ顔になってしまった。
相変わらずガスっているので展望は良くないが山小屋が営業している事が分かったので安心して気持ちよく歩けた。蛭ヶ岳から塔ノ岳までは本当に展望が良い場所なのだ。天気が良かったらどんなに素晴らしいだろうと残念に思う。
それにしてもだ、蛭ヶ岳から丹沢山までがとても長い。とくに鬼ヶ岩ノ頭から不動ノ峰は長かったー。いくら歩いてもまだまだ先がある!って感じだ。不動ノ峰から丹沢山が見えた時は「やれやれ今日最後の登りだ!」と思わずにはいられなかった。
蛭ヶ岳から丹沢山へはなんとコースタイムの4割増でヘロヘロになって到着した。でぇ、またしても急に焦り出した。蛭ヶ岳からここまではトレースがしっかりしてんのに何でこんな時間かかってんの?おまけに足もヘロヘロ!これじゃ塔ノ岳に着くのはほんと夜になっちまう!あと一時間で日没だ。ヘッドライトは持ってきたけどあまり真っ暗な中を一人で歩くのは気持ちが良いものじゃない。ゆっくりと休む気持ちはなく、直ぐに歩き出した。

臼ヶ岳山頂からの蛭ヶ岳 この後天候が急変して何も見えなくなる
地図のコースタイムでは丹沢山から塔ノ岳まで50分だけど、急いでもこれがまた中々着かないのだった。もう足はヨレヨレになっていてちょっとした雪の荒れにさえ足をとられてよろけてしまう。登山道は急な登りという箇所はなんだけれどもうー少しの登りでも直ぐに息があがってしまう。
そして本当に今日最後の登りだ、これを登ったら塔ノ岳山頂だっ!と気合を入れ、ふと顔を上げるとそこには鹿のデカイ顔があった。登山道脇に立ってこっちを見つめる鹿と1メートルの距離で視線がぶつかった。思わず驚いて「わ〜!」と情けねー声をあげてしまった。
最近、鹿が人のそばまで平気で近寄るようになってあまりにも馴れ馴れしい。君達、冬眠しなさい!
塔ノ岳山頂には誰も居なかった。小屋の中は大勢の登山者でごった返しているみたいだ。結露し曇った窓ガラスを透して中の楽しそうな声がかすかに聞こえてくる。
小屋の中は暖かいんだろうなー!と冷たくなったテルモスの紅茶を飲み干した。
山頂からの展望は無く、富士山も全く姿を確認出来ない。西の空に薄っすらと残照があるが陽は沈んでしまったのか、それとも雲に隠れているのかさえも分からない。秦野市街を見下ろすとポツポツと街の灯りが輝き出していた。
今日の最後を飾るにはずい分寂しい情景だったが心の中は完走の達成感のためか、まんざらでもなかった。
後は降りるだけだ!ずい分長かった山行だったけどあと2時間降れば終わる。ヘッドライトをザックから取り出し、とにかく足元に気をつけて降りることだけを考える。
金冷シに差し掛かる手前でとてつもなくでっかい箱をボッカしている人が登って来た。高さX奥X幅がそれぞれ1X1X1.5m位の箱が背負子に乗っている。僕を見つけると「ウオッス!」といかりや長さん風に挨拶してきたのでこっちもその勢いに押されて思わず「ウオッス!」と挨拶してしまった。重さはどれ位あるのか分からないが全然息は乱れていなかった。短パンの下にはブットい大腿四頭筋が盛り上がっている。まったく世の中にはすごいおとっつあんがいるな!と思っていたら、すれ違ってしばらくして、そう言えば今月のヤマケイに載っていた人では。。。
確か畠山さんという人だ!なんと丹沢に1年間で415回も登ったというとんでもないおとっつあんなのだ。
花立山荘近くになると真っ暗になったのでヘッドライトを点ける。そうしたら突然暗闇の中からまたボッカの人が登って来てびっくりする。しかしこの人も荷物がデカイ!どこの小屋の人だろう?無燈火でこんな時間まで大変だ。そして登山道の脇では数頭の鹿が木の根元あたりで何かを懸命に食べていてこれにも驚かされる。もー真っ暗なのに人も動物も行動を諦めきれないのか!暗いんだからみんな帰ろうよ!
花立山荘からは秦野市街の夜景が綺麗だった。今日は天気が悪く、景色は今ひとつだったがここに来て最後にご褒美をもらった気分だ。

秦野市街の夜景 手前にあるのは花立山荘
小屋からの降りは階段状なのでヘロヘロ足にはこたえる。この階段も自然保護のためだからしょうがないのは分かっているが疲れているので脇の方を歩きたくなる。でもここで脇を歩いてしまうとそこから土砂が流出してしまうのでひたすら頑張るのだ。
このあたりまで降って来るとさすがに雪は溶けてぬかるみになっていた。暗くてよく見えないが靴は泥んこになっているに違いない。今日一日頑張って歩いてくれた靴だ。大倉に着いたら泥をきれいに洗い落としてやろう!それにこのままだとバスが泥だらけになっちまうかんなー!
歩いていると足元が星か宝石のようにチカチカっと小さく瞬いているのに気が付いた。よく見ると雪融けで出来たほんの小さな水溜りに黄色い光が反射している。はっとして空を見上げると頭上に三日月が浮かんで澄んだ光を投げかけていた。
もうすぐせわしくってしみじみとした一日が終わる。僕はフーッと大きく息を吐き、ヘッドライトの光に導かれるように再び闇に向って突入していった。
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