丹沢山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:タクシー)

◆11月23日
登戸(5:30) +++ 秦野(6:28/6:35) === 蓑毛(6:50/6:55) --- 水場(7:15/7:30) ---ヤビツ峠(8:15/8:20) --- 岳ノ台(8:50/9:15) --- 登山口(9:55/10:00) --- ニノ塔(10:55/11:00) --- 三ノ塔(11:10/11:30) --- 鳥尾山(11:45/11:55) --- 新大日(12:40/12:45) --- 塔ノ岳(13:10/13:20) --- 丹沢山(14:15/14:30) --- 塔ノ岳(15:25/15:30) --- 大倉(17:25/17:35) === 渋沢(17:50/18:02) +++ 登戸(19:10)

山日記

11月に入るとムーンライト信州もなくなり、あちこちの駅から登山口へのバスも無くなってしまう。
そうなると車が無い僕は行動範囲が急にググッと狭くなってしまう。山が遠くなってしまう。
こんな時は近くの低山へ晩秋を探しに向かう。
オニギリとテルモスを持って各駅停車に飛び乗るのだ!


いつも蓑毛から丹沢山登りは始まる。そして始まりはいつも敬礼なんだ
蓑毛でバスを降りたのは登山者ばかり男性7人だった。
トイレを済ませ、靴紐をギュッと閉めなおして歩き出す。
オッと忘れてはいけない「東京少年キャンプ連合発祥の地」の少年像が敬礼している。さすがに敬礼を返すのは恥ずかしいので心の中で「行って来っかんなー!」と挨拶する。

山にやって来たんだ!どこの山でもそうだけど歩き出す瞬間のこの安らぎと期待感を感じながら沢沿いに林道を登って行く。登山道は途中までは関東ふれあいの道「大山参り蓑毛の道」と同じルートを登って行く。

テントが無いとザックがさすがに軽い!だけどここはユックリ歩かなきゃいけない。この道は見かけ以上に急なのでハーハー、ゼェーゼェーと知らないうちに息があがってしまうことになるのだ。
でも薄っぺらい体力なのは僕だけのようで、歩き出して5分しか経っていないのに早くも他の登山者6人全員に追い越されてしまった。
良いんだ、良いんだ!今日はのんびり歩こうと思っているのでこうやってしんがりを歩く方がかえって気が楽だ。

歩き出して20分、全国名水百選「秦野盆地湧水群湧水地」に着いた。ここで早くも休憩兼朝食にする。メニューはシンプルにコンビニで買った太巻と稲荷寿司だ。
お腹が膨れ、名水をゴクリと飲むと体中に気力が充満!「さあ、行くでぇー!」再び秋に向って歩き出した。


ヤビツ峠までの道は色んな色がチクチクと瞳孔を刺激します。

これはアザミですね。冬はもうそこなのに色んな花が咲き誇っている塔ノ台までの道でした。
湧水地からヤビツ峠までは緩やかな登りだけど展望は良く無い。時々。木々の隙間に秦野の市街がキラキラと白く輝いて見える。クンクンと空気を嗅いでみる。特に山の匂いがするわけじゃーない、ただもうずいぶんと下に見える市街地の姿に山に来た事をどこかで実感したいだけなんだ。
たけどそんなに焦る事はなかった。ヤビツ峠近くまで来るとデッカイ楓の木があって紅く紅葉した部分とまだ緑のままの部分がうねるように枝を飾っていた。足を止めて鮮やかな秋の片鱗とご対面。
足を進める度に赤や黄色の鮮やかな色彩が目の前を跳ね回り行く手を阻み先に進めない。オッと注意しなくてはいけないのは道幅が狭い箇所があるのでやたら景色にウットリしたり、ファインダーを覗くことに集中していると危ないのだ。
ヤビツ峠には既に十数台の車が止まっていて、その前でかっしりと準備体操をしている登山者の姿があった。その人たちを尻目に塔ノ台ハイキングコースへと登って行く。ススキやもう落葉してしまった木々の間を登り、振り返ると大山がでかい。
途中に休憩所があるが余り展望は良くないの休まずに先に行く。
竹林の中の道を一旦降りて登り返と伐採跡なのだろうか木が全くない裸地になった。こんな季節なのに色んな種類の花が咲いている。
鹿害防止のための階段や柵を通り抜けて登って行くとポッと塔ノ台山頂に着いた。ススキの原の真ん中に展望台があり、登ってみると大山、二ノ塔、富士山の展望が良かった。このコースは余り人気が無いのか全然人が居なくて、でかしたぞー!青空独り占め状態だ。
立派な展望台が有るのだけれど誰も居ない塔ノ台山頂
山頂から植林帯を降りて行くとまたまたポッとカヤトの原っぱに飛び出した。パラグライダーか何かの滑走台があってここからも富士山、大山の展望が良く、無造作に放り出してあった宝物に一人気がついたみたいな優越感にヒタヒタに浸ってしまうのだ。
塔ノ台山頂には方位盤があるけど方位盤が有る場所からは雑木林が視線を遮り何も見えなかった。
昔は見えたのだろうか?
でも展望台からはさすがに展望が良かった。
親子三人が登って来た。親子というよりどうやらおじいさん、おばあさんとその孫って感じだ。女の子が青空に向かって「やっほー!」と叫ぶ、その姿をおじいさん、おばあさんがただただニコニコしながら眺めている。
「山には色んな人が登っている、山はそのそれぞれの人達にそれぞれの幸せを与えてくれるんだよなー!」忘れていた小箱がコトリと音をたてて開き、その分だけ心が広くなったような気がした秋の日の午前9時だった。

カヤトの原からの大山です。さすがに大山と言われるだけあってとにかくデカイ!
ここを降り林道に出て、二ノ塔へ登山口に来て見るとやはり丹沢は人気の山、老若男女、今日も登山者が多かった。
登り出してすぐ、紅葉した楓の鮮やかな赤色に迎えられる。紅葉の時期には少し遅いのだけど今もしっかり秋の余韻を残している。
楓の下を通ると赤色の葉をすり抜けた日差しが気持ちを優しくしてくれる。「良いなー!」その度にカメラのシャッターを押すのでフィルムが何枚あっても足りないのは正直困る。
歩いていると8歳位の男の子に追い越されてしまった。「ママー!先行っちゃうよー」振り向いて下を歩いている家族に声をかける。まったく元気な子だ。半袖からツンツンとした熱気がはみ出している。
立ち止まっているその子を追い越そうとしたら「山って空気がおいしいねっ!」って声をかけられた。なんだかせーいっぱい背伸びして言っているようで妙に可笑しかった。言葉を返さなきゃいけないんだけど返す言葉が見つからなくて「うおっす!元気だねー!」って答えたけど全然会話になっていないことに恥ずかしくなってしまった。
雑木林の中を過ぎるとザレ場になっていて振り返ると大山がデカイ!先ほど登った塔ノ台は思ったより高く見える。空気が澄んだ日は相模湾、江ノ島はおろか、伊豆大島、房総半島まで見えのだけどあいにくこの日は白く霞んで見えなかった。
カヤトの原を歩く。これはトテツモナクいい気分!

富士山もたしかにそこにあってそれは良い景色です
登山口から登りだして1時間で最初のピーク、ニノ塔に到着。ここからはズッコンと富士山が見え、やったーと感激!・・・いやいやここで満足してはいけないのだ。ここから10分先にある三ノ塔はさらにスゴイ眺望が待っているので感動が溢れ出さないようにしながら歩いて行く。

たまんない!紅葉と出会う度にシャッターを押すのでフィルムが足りない
今日は若い人も大勢歩いている。三ノ塔で休憩していた学生らしき5人が僕の前を楽しそうに歩いている。「”坂の上の雲”を読んでいるかいないかが、バカかそうでないかの分かれ目だな!」話の前後が聞こえないのでなんだか突拍子もないような話に聞こえるがとにかく「僕はバカじゃなくて良かった」と思った。
それから坂本竜馬とか新選組とか言葉の断片が聞こえてくる。やっぱ今の学生でもそんな話をする人がいるんだなー!大河ドラマの影響かな?などと考えていたら・・・「スゲェー!」突然前の学生が叫んだ。どうやら三ノ塔に着いたらしい。「どうだ!すごいだろー」別に僕が造作した景色でもなんでもないんだけど僕も絶叫する準備をした。
三ノ塔山頂はほぼ360度の展望だ。大山、秦野市街などが見えるが何といっても一番は富士山だ。
ここからの富士山はその前に幾重にも連なる山並みの陰に建物などの人工物がみんな呑み込まれてしまっているので富士山がいっそう秀麗に見える。

八合目辺りまで雪を被った富士山を眺めながらゆったり昼食にする。時間的に少し早いのだけど塔ノ岳山頂は人が多く落ち着かないので、眺望では負けないここ三ノ塔山で昼食にすることが多い。
それにしても今日は人が多い。丹沢の問題点は登山者の多さにある。バカ尾根は以前から植生復元のための植林などが行われているが、最近はこの三ノ塔なども含めてアチコチで登山道整備を含めた植生保護対策がなされている。そんな光景を目にすると自然保護の為、はたして自分に出来ることはあるんだろうか?と自問自答してしまう。そして「せめて山に登らないこと?」とそこまで考えてジレンマを意識下のどこか届かないところへ押しやってしまうのがいつもの事だ。

昼食を食べてもまだまだ先は長い。三ノ塔山頂の端っこまで歩いてくると登山道は鳥丸山へ向けて一気に降っていく。ここからは塔ノ岳の展望が良く、見下ろすと鳥丸山-行者山-新大日と続く細い稜線が遥か遠くに見える塔ノ岳まで延びている。
初めて丹沢に来た時、ここから塔ノ岳を望んで「あんな遠くまで歩けるんだろーか?」と不安のなったことを今でも思い出す。今では、ここから先、塔ノ岳までのコースの面白さにワクワクするようになってしまった自分の進化が嬉しい。でもその進化がすごく遅いのが悲しい!
とにかく、行け行け、GO、GO、GO!

三ノ塔からの塔ノ岳、遥かなる塔ノ岳。
やはり今年の秋は暖かいのか?例年だったら三ノ塔から鳥丸山への降りはコチコチに凍っていてゆるぅーく気を抜いて歩いているとツルッとすべったりするのだ。慌てて立ち上がると小さなお地蔵さんに見られてしまったことに気が付いて照れたりする。だけど今年は道が全く凍っていない!楽だ!安全だ!とドンドン降りて行った。
左:三ノ塔からは富士山の眺めが良い。
中:休憩所というより避難小屋といった感じ。床は有りませんがベンチで寝れます
右:三ノ塔の端っこにたたずむ小さなお地蔵さん。行き交う登山者を優しく見守っています。
鳥丸山山頂は三ノ塔に比べてかなり標高が低いのに視界を遮るものが無く、山頂からの展望はやっぱり素晴らしい。三ノ塔で休んだばかりなのにまた一休みしたくなるそんな所だ。
木のベンチに座ってミルクティを飲みながらホゲェーと遠い青空を眺める。この先、塔ノ岳までは登りが続くので一戦前の最後の休息といった感じだ。
ここでホゲェーを十分堪能したらいよいよ塔ノ岳の責めに入る。三ノ塔を振り返っては「こんなに降りてきちゃったよー、勿体なー!」と思い、塔ノ岳を臨んではまだ遠くに見えるその姿に気合を入れる。

三角形の鳥尾山荘
ここから先、またまた丹沢は色んな変化を見せる。ちょっと降るといきなり行者岳への急登、お地蔵さんへ慌しく挨拶して降って行くと本コース唯一の鎖場があるがこれくらいじゃービビらない!両側が崩れた細い稜線を抜けると植生再生中の荒地の中の階段を登って行く。これで登るのは最後かなぁー!と登って行くとカイサク小屋で期待はみごとに裏切られ、まだ上があることにガッカリする。斜度は余りないのだけれど直登なのでかなりヘロヘロに疲れながらようやく新大日に到着。ここまで来ると塔ノ岳はもう目と鼻の先なんだけどこれまでの奮闘のためここで一休み。
行者岳山頂には小さな小さな石仏があります。
何ともいえない表情で東の空を見つめていました。
今回のコースで僕が特に好きな道は新大日から塔ノ岳、塔ノ岳から丹沢山、それから金冷シから鍋割山までの道だ。この3つは尾根上の森が続く道なので歩いていて本当に気持ちが良い。それに何より平坦なのが嬉しい。

塔ノ岳山頂にはりっぱな標柱があり、その横に立って写真を撮ろうと人が群がっています。その横には石仏があります
塔ノ岳山頂からの大山。
手前に見える木ノ又大日の森も良い感じです。
その好きな道の一つを歩いて塔ノ岳へ向かう。塔ノ岳から早くも降りて来る人達とすれ違う。本当に今日は登山者が多い。その大勢の登山者の隙間をぬってここでも登山道の整備が行われていた。何だか丹沢もアチコチくたびれてしまっているようで取り留めの無い不安が小さな波紋となって心の中で広がりやるせない寂しさを感じてしまう。
塔ノ岳山頂はやっぱり人が多く、座って昼食中の人たちを除けながら広い山頂のど真ん中にある「塔ノ岳」の標柱に向かって行く。この標柱の写真を撮りたかったのだけれど標柱の横に立って写真を撮るのが順番待ち状態で入れ替わり立ち替わり次から次へと誰かが立つので撮影を断念した。
ただやっぱりここからの富士山は素晴らしい。それから北に見えている丹沢の主脈、丹沢山や蛭ヶ岳、ちょっと見えづらいけど反対側の大山もここまで登って来たことをガツンと納得させる眺望だ。
だけどいつもそうなんだけど、どーも僕は人が多い場所が苦手なのでせっかく景色のよい塔ノ岳山頂も早々に丹沢山へ向かってしまうのだった。

塔ノ岳山頂を離れると急に人の姿が少なくなる。ホーッとすると同時に「何でほとんどの人は丹沢山まで行かないんだろー?」という疑問が湧いてくるんだけれど、理由は何であれとにかく人が少ないと言うことはヒジョーに快適なことに思える。
道は笹原の中を縫うように進んで行く。「おーし!いいぞー!」ブナの森の中の木道をのんびり歩くことは悪くない気分だ。木道にコツコツと足音を響かせながら歩くと落ち着いた気分になれる。


塔ノ岳から丹沢山に向います。笹原にブナの木が素晴らしい
先日、柳生博さん(俳優)のコラムで「山を歩いていると自然は自分を等身大に戻してくれる。つまり何かで失敗して小さくなった時、逆に上手くいってチヤホヤされて大きくなってしまった時など、自然の中を歩くとスーッと等身大に戻って行く・・・自分って、まぁーこんなものだって素直になれる」を読んだ。
それを読んでから心のどこか隅っこに”等身大の山登り”って言葉が残っていてちょっと意味は違うけれどどんな山に行っても自分なりの山登りが楽しめたら良いなーと思うようになった。今日の僕は大きくも小さくもない、つまり等身大の自分であるわけだけどこうやって森の中を歩いていると自然は無理強いしないし、やっぱり等身大の安らぎと感動を与えてくれる。
「これだから山登りは止められないんだよなー!」と森の中を歩いて行くと落葉が重なるように気持ちが充実していく。

でかいブナの木があると思わず立ち止まって見入ってしまいます
森が動いた?と思ったらデッカイ牡鹿が1頭ユッタリと歩いていた。僕に気づくとユックリと振り向き、その丸く黒い瞳で見つめられる。
丹沢の鹿は人馴れしていて一行に逃げる気配が無い。写真を写すのには都合が良いけどあの跳ねるように野山を駆け回る姿を見れないのはちょっと残念だ。

丹沢山山頂はグルリと周囲を木々に囲まれているので展望はない。木のテーブルでオニギリを食べていると数組のパーティーが蛭ヶ岳へ向かって行った。時計を見ると2時半だ。今から蛭ヶ岳へ行くのは大変だなーと思ったが、考えたらそんなノー天気に人の心配ばかりもしていられない。僕はここから大倉まで降って行かなくてはいけないのだった。

塔ノ岳へ向かって来た道を引き返す。まだ3時前なのに既に日差しがオレンジ色を帯びていて同じ道をまた違った色に見せている。やっぱり秋は日が短い「秋の日はつるべおとし」ぐずぐずしていてはいられない。
塔ノ岳山頂には誰も居なかった。つい2時間前はあんなに人が居たのに何だかだまされているような感じがして、すねてしまいそうだ。
周りの山々をを眺めると雲がドンドンと下の方から這い上がって来ていて、三ノ塔を見ると山頂だけしか雲の上に出てはいなかった。
テルモスにわずかに残っていたお茶を飲んでいると誰かが後ろをスゴイ勢いで通り過ぎていった。振り返って見ると畠山さんだ!前回見た時はデッカイ木の箱を背負子に背負っていたが今日はプロパンガスのタンクを背負っていた。それもダルマ型の小さい方ではなく、その倍はある長円筒型の方だった。今、ガスボンベは空だから多少は軽いのかもしれないけど登って来たときはガスが満タンだからかなりの重さだったはずだ。やっぱりスーパーオッちゃんである。あのぶっとい太モモにかかっちゃ何でもボッカされてしまいそうだ。

木にビッシリとしがみ付いているキノコでしょうか?

日高の真ん中に鎮座しているブナの木はこの道のシンボルです
スーパーオッちゃんの気迫にけん引されるように後について降り始める。
途中、金冷シから鍋割山へ向かうかどうか悩んでしまった。今、時間が3時半だから鍋割山にはなんとか日没までには到着出来そうだ。日没まで歩くというのは安全面から考えると危険行為、タブーである。良い子は絶対に真似しちゃダメな行為だ。だけど金冷シから鍋割山への道がまた素晴らしい森なのだ。それに山頂から夕日が拝めるかもしれない。
だけどやっぱり等身大の山登りだ!山行のバリエーションを広げると言う意味では夜歩くと言うのは一つの要素かもしれない。確かにステップアップするのは大切なことだけど、夜歩く事に慣れてしまったからといってこんなことを続けているといつか自然に痛いしっぺ返しをくらうことになる。
ごめんなー!鍋割山は次に来た時に寄る事にしよう。今日は塔ノ台へ寄ったので遅くなってしまった。残念だけど今日はここで時間切れだ。
左:丹沢は鹿が多いけれどこの日はキリリとした横顔の一頭だけ。
中:建て替えられたばかりのみやま山荘。その小屋の前のテーブルで・・・そんなにのんびりしている時間はないんだよ!
右:”山”の字をモチーフにした丹沢山の名前が刻まれた石塔

花立山荘までは前を行く畠山さんの姿を確認出来ていたが山荘からの降りで一気にぶっちぎられて見えなくなってしまった。本当にスーパーオッちゃんである。それにしてもこの道は階段が続き、相変わらず歩きづらくツライ道だ。
堀山辺りを歩いていたら木々の間から差し込む日差しが森のアチコチに真っ赤に染めていた。西の方向を見ると真っ赤な夕日があった。薄く広がった雲がフィルターとなってオレンジ色の太陽を真ん丸に浮かび上がらせている。なんだか幻想的な光景だった。

見晴茶屋辺りで薄暗くなり始めたのでザックからヘッドランプを取り出して準備する。
僕の前後を見ると登山者の姿がチラチラと見える。こんな遅くまで歩いているのは自分だけだろうなーと思っていたので意外だった。

うひょーっ!かなり下まで降って来るとそこは楓の紅葉がスゴイ!山の下の方は丁度紅葉の見頃で、紅葉のトンネルが出来ていた。今日、あんなに登山者が多かったのももしかしたらこの紅葉をハントしに来たのかも知れない。んー、バカ尾根をチョット見直してしまったのだった。

あと、10分位で舗装道路に出るという地点まで降って来たら、余りにも多くの登山者が歩いているので驚いてしまった。それに半数の人はライトを持ってなくて真っ暗な中を歩いている。ライトを持っている人もペンライトだったり、数人のパーティーにライト一本だったりという、なんともまー心細い!
空が見える所はかすかな光が届き、どうにか物の輪郭が判別出来るくらいの明るさなんだけど、森の中に入ってしまうと真っ暗で自分の足さえ見えない状態で、よくこんなんで歩いてられるなー!と心配になる。
何でだろう?日没の時刻を知らなかったんだろーか?到着時間が予定より遅くなってしまったんだろーか?それとも何かの宗教?先祖代々の家訓?・・・とにかく素直に疑問に思う光景だ。そんな夜行性の人達を追い越す時にこれみよがしにライトをビガァーッと点けるとちょっとした快感だった。

秋の一日が終わっていきます。
薄雲の中の夕日は幻想的でした。
大倉に着くと丁度バスの発車10分前だった。バス停のベンチでヘッドランプを外すとやっと今日の山行が終わったんだなという気持ちが広がってゆく。
「いやーっ!参ったなー!」直ぐ後に到着したオッちゃんが疲れた声をあげた。「あなた、塔ノ岳から何時間で降りてきました?地図じゃー2時間になっているけど、いやーっ!とてもそんなんじゃー着かないよね?」と泣きつかれたので「私は3時間かかりました」とここは話を合わせた。2時間で降りて来たことを言ってオッちゃんをこれ以上へこますことはない。
「いやーっ!早いですねー、私は5時間かかりましたよー。塔ノ岳を12時に出たんだけど、いやーっ!こんなに暗くなってしまいました!」「それは大変でしたねー!」となぐさめるように調子を合わせた。
良いんだよー!山登りは人それぞれ!降りで5時間かかったかもしれないけどその間しっかりと自然とつながっていたんだ、人とは違った山登りを楽しめたんじゃーない?オッちゃんにはオッちゃんの山登りがある。等身大の山登りがある!
そう思いながらバスのステップを上がるオッちゃんの背中を見送った。んー、しかしそれにしてもだ!5時間とは・・・
ザックの中からフリースジャケットを取り出し頭からスッポリとかぶる。そう、そしてこのフリースの中にこそ僕の山登りがある!
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