丹沢山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆1月29日 (時間未記録)
登戸 +++ 大秦野 === 蓑毛 --- ヤビツ峠 --- 三ノ塔 --- 烏尾山 --- 行者岳 ---塔ノ岳 --- 丹沢山 --- 塔ノ岳 --- 堀山 --- 大倉 === 渋沢 +++ 登戸
山日記

あちゃーっ!何にも見えん!
・・・と言うか正確には周りの山々は見えるけど富士山は見えなかった。
ヤビツ峠から塔ノ岳を目指すとまずこの二ノ塔山頂でずわーん富士山とご対面!おーっ!と歓声をあげるという仕組みなんだけれど・・・それが空を仰ぎ見ると東京、横浜など東側の空は雲ひとつ無い快晴なのに富士山のある西側はドンヨリとした灰色の雲に覆われていた。

ガックリと気落ちしながら二ノ塔よりもっと展望の良い三ノ塔に行ってみたけれど、三ノ塔山頂からの展望もやっぱり期待外れ、さらにへこむという結果になってしまった。
東の空は晴れているのに西の方から流れてきた雲はしっかりと丹沢上空を覆っていて太陽は姿を見せない。僕は富士山が見えなくても晴れていたらけっこう満足するタイプのハイカーなのだけれど、このどんよりとした灰色の空の下で見る山々の姿は雲の重さに圧迫されてしまったかのように静まりかえっていて、そんな景色を見ているとこっちまで気持ちがシーンと沈んでしまう。
山頂にいる他の登山者もどこか寂しそうに、そして寒そうに休憩している。


ヤビツ峠から見た江ノ島。東側はこんなにも晴れているのに・・・

地図を見るとここ三ノ塔山頂から大倉へ降る道がある。こんなしょんぼりした天気では塔ノ岳へ行ってもツマンナイのでいっそのことここから下山してしまって家でビデオでも見た方が賢明かな?と思えた。
でも、まー良いかっ!先月の終わりに肋骨を痛めて塞ぎこんでいたけど最近やっと腕を頭の上まで上げるまでに回復した、鼻水も思いっきり噴射出来るようになった、リハビリを兼ねてここはのんびりと歩いて塔ノ岳まで行ってみようと歩き出した。

先週の土曜日、川崎市街でも数センチの積雪があった。この分では丹沢山は相当雪が積もったんでは?と期待して来てみたのだけれど一週間のあいだにかなり融けてしまったようで登山道を歩いていても雪がある所と無い所が半々位だった。
随分迷ったけれどやっぱり雪山用の登山靴で来なくて良かった!と思った。雪山用はソールが硬いので雪の上は歩き易いけれど、土の上はカクカクとした歩きになってしまいすごく疲れる。

マーフィーの法則ではないけれどこんなこと思っている時に必ず登場してくるのがプラブー(プラッスチックブーツ)の登山者だ。
行者岳を登っていると前からやってきた男性の手にはピッケル、そして足にはプラブーを履いていた。その足元を見てこりゃ大変だね!とすれ違いざまに振り向くと、その背中にはアイゼン、そしてなんとカンジキまでくくり付けられていた。
この男性、檜洞丸から縦走してきたのだろうか?檜洞丸と丹沢山の間は歩く人が少なくてある程度降雪があるとカンジキが必要かもしれないけど、はたしてピッケルまでは必要かな?疑問、憧れ、同情の入り混じった視線でその姿を見送ったのだった。
僕のザックの一番下にもアイゼンは入れてある。だけど思い浮かべたら冬の丹沢には何度も登ったことがあるのにアイゼンを付けた記憶が無い。アイゼンが無かったらザックも少しは軽くなるのでそれだったら持ってこなけりゃ良いのだけれど、まぁ用心にこしたこはないしね。


三ノ塔休憩所の扉の取っ手はフォークとナイフ。
一体誰の?

雲が多く、冴えない展望なのでのんびりとリハビリ山行、そして久しぶりに「疲れない登山歩行」のための僕オリジナルのトレーニングである”ぜってぇー、止まらんけんね2006!”(略してZT2006)を兼ねて行うことにした。
このZT2006pro訓練は疲れない登山=ゆっくり歩くという概念を元に、休憩はおろか息を整えるために立ち止まることも含めて、とにかく一歩たりとも立ち止まることなく山頂まで歩き通すというトレーニングである。(と何だかエラソーな言い方だな!)
一歩も止まらない事を決めてしまうと自然と歩く速さを抑えるようになる。特に急登では息が上がらないように極力歩く速度を遅くなる。心拍数が一定以上上がらないように歩く速度を常に意識し、出来れば無意識に歩く速度をコントロール出来るようになるため、そのゆったりとした歩行速度を体に憶え込ませるのが目的だ。
というわけでZT2006pro-special訓練を遂行し三ノ塔から行者岳、新大日とノンストップでゆったりと歩いて行った。

新大日を通り過ぎた辺りから上空を覆っていた雲が薄くなっているのにふと気が付いた。それまでは太陽なんて意地でも見せんけんね!とかなり意地っ張りな雲だったけど、まー少しぐらいは良かろうもん!と雲の中に太陽が白くぼやけるように浮かぶ程度に雲が薄くなっていた。
あれっ、これはもしかすると・・・天気は回復するのでは?そうするとそれはやっぱり嬉しいことで、それは山登りを楽しむことにとても大切なことで・・・ざわざわとした気持ちで塔ノ岳への最後の登りを登って行った。

ひょえーっ!
まず何よりも・・・塔ノ岳てっぺんに立って最初に思うこと、眺望だ!富士山だ!と興奮する気持ちはとりあえず横の方に置いといて、何よりも人の多さには驚いてしまう。
今日も少なくとも100人は居るな!と思う。景色は見ただけでは決して減るものでは無いのだけれど、これだけ人が多いともう展望はもう残っていないのでは?といらぬ心配をしてしまう。

えーっと雲は、雲は、取れたかな?と富士山のあるべき方向に視線を向ける。
おーっ!そこには非常に薄ぼんやりではあるけれど正しい三角形、端正な裾広がり、正真正銘の富士山の姿があった。
てっぺんに何かが待っている!というのは、それはうんと素晴らしい出来事だとじんわり思う。


五合目から下は雲に覆われていたがそれでも段々とその姿を現してきた富士山

見上げると空は一面の青空に変わっていた。山頂の西側、空いている場所を探して腰掛ける。

富士山、そして周りの山々と向き合っての昼食。こうやって何度も何度も丹沢に来ていると、最初登ったときのような感動はさすがに薄らいでしまったけれど逆に心の安らぎと言うか安堵感は回数を重ねるごとに増していく。
いつもと変わらない景色だけど青空に雲がふんわり浮かんでいるただそれだけで良いな!としみじみ納得してしまうようなそんな心地よさを感じるようになってしまった。

今日の山頂には若い人の姿が目立ち、いつにも増して賑やかだった。
僕の隣には学生らしいのが7,8人で寄り添うように丸くなり、やたら「さみぃー!」と絶叫しながらカップラーメンをすすっている。
食事しているから手袋は外しているのだろうか?それにしても帽子もかぶってないし、セーター姿の奴もいて、こんな薄着じゃぜってー寒いな!と思う。
でも若いからどーにかなるだろう!彼らの姿に悲惨さは全く感じられず、むしろそのハチャメチャさがほほえましく思える。アキバで萌え〜っとやっている奴等より、それはもーたくましい男たちの姿であったのだ。


天気も回復した。
こうななるときっちりと丹沢山へ向うのだ!


ブナの木、そして笹原。気持ちの良い尾根道が続いている。

昼食を食べ、ポットのミルクティーをすするとガゼン元気が出てきた。おーし!富士山もやる気を見せてきたし、それじゃー丹沢山へ行ってみっか!
さっきまで帰ろうと思っていたのにこの気持ちの変わりようは一体なんだ!ブフフと少し怪しい笑みを浮かべる。

塔ノ岳から少し降りるとそこからは熊笹とブナ林のこよなく素晴らしい道が続いている。アップダウンも小さく、登山者の姿も少ない、まったくノンビリと歩くにはもってこいの道なのだ。


晴れってことはそれだけで嬉しいこと


丹沢山頂。展望は無い。だけど→

丹沢山山頂から少し歩くとこの展望

塔ノ岳山頂は風が少しあったけど丹沢山への道はほとんど無風状態、太陽が光にジンワリと包まれると体もホカホカになって心が軽くなる。そして心が軽くなるとこうして山の空気に触れていること、ゆるやかな風を感じながら歩いているということがたまらなく気持ち良い出来事に思える。
視線の左側にはいつも富士山の姿があって、ここでの富士山はサスペンスドラマの山本紅葉みたい居て当たり前、居ないとなにか物足りなさを感じる存在になってしまった。


丹沢山山頂付近から臨む富士山、棚沢ノ頭、蛭ヶ岳
すぐ目の前には笹原の不動ノ峰があって・・・こんな晴れた日に歩けないのがまったく残念!

塔ノ岳山頂は大勢の登山者でごった返していたのに丹沢山山頂は誰一人居なかった。周りを木々で囲まれてるためか風も無く、山頂は静寂そのものだった。
まだ新しいみやま山荘の窓ガラスは金属音がしそうなほど太陽の光をキラリと反射していて静かな中にも仄かなきらびやかを感じさせる。
山頂の展望は悪いがそこから蛭ヶ岳の方へ少し行った所に展望が良い場所があるので行って見た。


シジュウカラには木の好き嫌いがあるらしく、ある一本の木に集中して居た。


いつも丹沢では数頭見かける鹿なのにこの日は一頭だけ。多いのも飽きるけれど見かけないとそれも寂しい。

思ったより雪が少なくて残念!
他の登山者も雪の丹沢を期待して登って来た人がけっこう多かった。

目のすぐ前には不動ノ峰が見える。なだらかな笹の原の中の一本の長い登山道、ここもぶらりぶらりと散策するにはもってこいの場所の一つだ。
しかしなんでだ!今まで何度となく不動ノ峰は歩いたことがあるけど天気が良かったためしがない。雨は降らなくても曇ったり薄っすらとモヤがかかったような情けない晴れだったりした。
それが行かない今日に限ってめいっぱいの晴れ。こんなに晴れで、しかも雪も思ったより少ない。これだったら西丹沢から塔ノ岳まで縦走するんだった!と悔しくなるけれどもう遅い。
しかしせっかくの晴れは諦め切れない。おーし、いっちょ行って見るか!もしかしたら蛭ヶ岳まで行けるかもしれない。


丹沢山から塔ノ岳へ引き返す。

地図を出してコースタイムを確かめると・・・
丹沢山から蛭ヶ岳まで往復2時間半、棚沢ノ頭までだったら往復1時間半だ。んーん、やっぱりこれでは明るいうちに大倉まで降りることが出来ない。もちろんヘッ電は持ってきているけれど暗い中を歩くのもめんどーだ!
やっぱり引き返そう・・・そしてまた来よう!今度は山小屋に一泊してきっちりと不動ノ峰を歩いてやろうと思う。
だけどそういう考えはいつも新しい登山計画の下に埋没してしまうんだろうなー!という気持ちがして目の前に笹原を臨みながら中々踵を返すことが出来ないのだった。

丹沢山から塔ノ岳へ引き返す。来る時に写真はいっぱい撮ったはずなのに、見る方向が違うと景色も違って見えるのでまたのんびりとシャッターを押しながら塔ノ岳まで歩いた。


左:尊仏山荘の倉庫に使われていないランプが並んでいた。

右:塔ノ岳山頂に並ぶ石仏。後ろの富士山の姿ももうぼんやりとしていた。

塔ノ岳山頂には一人も居なかった。つい3時間前には100人以上の登山者でごったがえしていた山頂も今はひっそりと静まり返っていた。
何だか一人おいてけぼりをされたような感じは否めない。

だけど山での時間に一人取り残された気持ちはしない。
富士山は逆光の中に沈もうとしていて淡い影へと姿を変えていた。丹沢山は少し紅みを帯び優しさを増し、大山は残照にまだまだきっぱりと輝いていた。
こうやって山は輝いてずっと残っていてくれたのだ。
ひとりぼっちの山頂、静かな時間の流れはしんみりと心に染み入る情景を与えてくれる。
ゴキゲンな結末!丹沢はやっぱお気に入りの山だね!


誰も居なくなった塔ノ岳山頂
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