丹沢大山
行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆1月11日
伊勢原 (6:35) === 大山ケーブル (6:50/7:05) ---大山寺 (7:35/7:40) --- 阿夫利神社下社(8:00/8:10) --- 阿夫利神社(大山山頂) (9:15/9:45) --- ヤビツ峠 (10:20/10:30) --- 二ノ塔 (11:40/11:45) --- 三ノ塔 (11:55/12:15) --- 鳥尾山 (12:32/12:50) --- 新大日 (13:50/14:00) --- 塔ノ岳 (14:20/14:35) ---花立 (?) --- 堀山 (?) --- 大倉 (16:30/16:38) === 渋沢 (16:55)

山日記

1月1日
朝6時に起きてテレビを点けると富士山上空からヘリコプターによる初日の出の中継をやっていた。
登山届によるとこの元日に富士山に登っている登山者は180人余りもいるそうで、初日の出を山頂で拝もうとしている人がそんなに居るとは・・・羨ましさもあるけれど正月早々そこまで頑張ら無くてもえーじゃないか!いう感じがしないでも無い。
やがてテレビ画面いっぱいに真っ赤な太陽が映し出された。
急いで自宅の屋上に上がってみるとそこにも初日の出があった。僕のゆるーい元旦だった。

1月2日
午後になってビシッと気合を入れて山の計画を立てる。今年最初に目指す山は赤岳だ。
ちょっと体を作っておこう!山登りの計画を立て終えると、このわずか数日の間に弾力性を失った体に危機感を覚えてしまってジョギングをすることにした。
走り始めて3キロ地点、左足に違和感を覚える。5キロ地点、左足のヒザに痛みを感じる。
痛みを堪えて何とか10キロ完走、けぇっ待ってろよ赤岳!

1月3日
朝3時に起きてパッキングを始める・・・あれっ何でだヒザが痛い!
何故だろう?これまでも冬の赤岳へ行こうとすると、サングラスが割れたり、目覚まし時計が鳴らなかったり、そして今回は急にヒザが痛くなったり・・・と不吉なことが起こる。
これは行かない方がいいよ!という神様からのサインなのかもしれないな。

1月10日
どうにかヒザの痛みは無くなった。それにしても情け無ねぇーっ、完全に出遅れてしまった!
今年の一歩、今年最初の山はどこにするか?
初詣は元日に近所の神社で済ませてしまったけれど、ここはまず山の神様にも新年のご挨拶を、それにヒザの状態もまだ分からないので足慣らしも兼ねて近くの大山へ行くことにした。
赤岳へ!ともいう気持ちも無いではないがこの足ではいささか危うい感じがする。


大山ケーブルでバスを降りる。
ひとまずザックを降ろして自販機のホットコーヒーを飲んでいると東の空から登って来た太陽が当たり一面を真っ赤に染めた。
何だろう!この気持ち良さは、元気とかヤル気とか言った前向きの言葉が太陽の日差しの中に内包されているみたいだ。

歩く前から少しノンビリし過ぎた。石段を登り始めると同じバスを降りた登山者の姿はもうそこは無くて、シャッターの閉まった土産店がひっそりと並ぶ石段を一人登って行く。
こうやってシンガリを歩く方が返って良かった。今日は足の調子と相談しながらの登山なので後ろに並ばれると気疲れしてしまうだろう。

ケーブルカー駅から道は男坂と女坂に分かれていたけどここは迷わず女坂へ進んだ。
高川山、高尾山、伊豆ヶ岳、と登山道が男坂と女坂に分かれている山はあるけれど、どこの山も男坂の方が急勾配で険しい道になっている。そしてここも男坂の方がやっぱり険しいのだ。
普段だったら意地でも男坂を登るけれど今日はちょっと弱気なのだ。
道の両脇には近くの小学生が植えた三椏の苗木が幾本も繋がっている。3月になればこの参道に黄色の花がひときわ鮮やかだろうなと思いながらゆっくりと歩いて行った。


女坂の途中にある大山寺は別名・大山不動尊といい、東京の高幡不動、千葉の成田不動とともに関東三大不動の一つ。繊細な彫刻が壮言な印象のお寺なのだ。


背中にかいた汗がすーっと引いていく。一応山登り来たのだけれどここには汗臭さは似合わなくて、乱れた息も一気に落ち着きます。

大山寺での拝礼。「今年一年、無事に山登りができますように!」やっぱり山に来ると願いはこれしか出てこない。朝の空気はまだ凛とした冷たさを十分に含んでいて、その中でこうして手を合わせていると普段の生活の中にいかに内外からの雑言が多いか、神妙な雰囲気に心が一瞬にして浄化された気持ちになるから不思議だ。

更に女坂を登って行くと石段の上にひときわ立派な建物が建造物が見えた。阿夫利神社下社だ。
境内の入り口にはワラででっかい輪が作られ、その輪を通り抜けて前へ進んで行く。
拝礼の際には必ず何か願い事をしなくてはいけないということでも無いのだろうけれど、特に考えていなかったのでまたまた今年一年の山登りの安全を祈願する。
境内からは伊勢原市街の眺望が良く、オレンジ色の日差しが街に無数の影を造っていた。

大山山頂への登山道は境内の左横の方にあった。登山道への入り口には門があって、大山が山岳信仰の山であることを改めて実感し、神々しいような趣で登って行く。

ガラスの仮面と言えばマヤ、神社と言えば絵馬。
数え切れぬ数の絵馬が陽に照らされて鮮やかだった。この一つ一つに願いがしっかりと込められているのだ。


本当に濃い青の下の阿夫利神社下社。神主さんや巫女さんがせわしなく準備をしてました。なので鈴は遠慮気味に小さく鳴らします。

この先は参道という感じではなく山道になる。
以前来た時には山の中腹辺りに一畳ほどの小さな売店があってお爺さんがポツンと座ってジュースを売っている姿があった。僕は何だかその雰囲気が好きで今回もジュースを買うのを楽しみにしていたのだけれど、今日来て見るとそこには何も無くて廃材が落ち葉に埋もれているだけだった。何だかあのパインジュースの甘さが妙に懐かしい。

ヤビツ峠への分岐付近から急に雪が増えた。
軽アイゼンを付けている人も多いけれど僕は付けるのが面倒なのでそのまま登って行った。

山頂への途中から今日始めて見る富士山の姿。
山頂は風が強いみたいで雪が風に舞い上がっている。

鳥居を通り抜けて登って行くと山頂に到着。
阿夫利神社があって神社の前には伊勢原、秦野や相模湾など南側の展望が広がっていた。
やっぱりこの山を今年最初の山に選んだのは正解だったな。出来ることならば正月に訪れていたら、もっと言えばご来光をこの山頂で眺めたらかなり神聖な気持ちになるに違いないのだ。

しかし・・・それにしても・・・しかしだっ・・・正月早々・・・せこい事言うなと自分でも思うけど・・・大山って・・・大山って・・・なんて賽銭箱が多い・・・悲しいほど多い!!!

山頂には神社、トイレ、それにアンテナ中継所もあって意外と広い。
神社前のテーブルで昼食を食べた後、中継所の方へ行ってみるとそこにも開けた場所があった。
これって関東平野が全部見えているのでは?鈍く銀色に輝く関東平野の向こうに黒い陰が・・・あれってもしかして筑波山!
大山登山3回目にして始めて筑波山遠望。もっとも前の2回はただ汗を掻いて飯を食うだけの軽薄な登山だったからその時はその存在に気が付かなかっただけかもしれない。

神社の裏にポッカリと富士山の眺望が良い場所があった。それに富士山を背にした丹沢山塊の姿もまた素晴らしいのだ。
大山って山頂に建造物があって、それ故あまり登りたい山では無かったけれどこうして見ると関東平野の眺望は良いし、富士山ももちろん見えるし、塔ノ岳や丹沢山が一望出来る山として良い山ではないの!まったく気が付くのが遅すぎるよ。

大山山頂の阿夫利神社。昼食を食べていたら屋根から大量の雪の塊がすべり落ちてきて周りの人を驚かした。その姿を見てどうもスイッチが入ってしまったらしくひたすら笑い転げるオレ。


大山山頂からの富士山。大山はこれで3回目だけれど初めて富士山を見たような気がした。周りに居た人も一様にここで「おっ!」というような安堵の歓声をあげてしまう。

こうして富士山をぼんやり眺めている間も「いらっしゃいませ!」と元気の良い声が聞こえてくる。山頂の売店を手伝っている小学生の兄弟の声だ。段々と遠くなっていくその声に「何か買ってあげれば良かったな」と思いつつ山頂を降っていった。

ここも大山山頂。神社の一段下になる場所でここからは東側の眺めが良い。それはまさしく都心のパノラマ図。
この写真ではまったく分からないけれど都心の向こうに筑波山が見えてます。
ここにテントを張ってご来光を!とも企てるが幕営禁止なのだ。
大山山頂からヤビツ峠までの道、ここはマイナーな道だと思っていたけど意外と登ってくる人が多くて30人ほどとすれ違った。地図を見るとヤビツ峠から大山までのコースタイムはわずか1時間で、これだったらこんなに登山者が多いのもうなずけると妙に納得してしまう。ただちょっと山登りとしては物足りない距離にも思えるのだけれど。

大山山頂付近からの三ノ塔、塔ノ岳、丹沢山。
大山ってこうして丹沢の山々を眺めるのに最高の山なのでは?これも新しい発見です。
予定ではヤビツ峠から蓑毛へ降りるつもりだった。
だけど峠には沢山の車が駐車してて、中には今から登ろうと準備中の人もあって、そんな姿を見ていたらもう少し頑張ってみようという気持ちが沸々と沸いてきた。
どこまで歩けるか分からないけれど、もしヒザが痛み出したらその時点で中止し下山しよう、そう決めると気分が楽になった。
少し休憩すると三ノ塔へ向かって歩き出した。

この日の三ノ塔は風も穏やかでこの季節にしてはあったかな山頂だと思う。
撮影で塔ノ岳が切れてしまったのがなんとも悔しい。
ちなみにここの休憩所、今は出入り口に扉が付いているので休憩所というより避難小屋の様相だ。

三ノ塔山頂から今登ってきたばかりの大山を眺める。
写真では分かりにくいけれど大山の向こうには関東平野がドドーンと広がっているのだ。
この日も三ノ塔山頂には家族連れの姿が多く目についた。
富士山は雲に隠れてしまって見ることは出来なかったけれど、この山頂はまだたっぷりとした青空の下にあってポカポカと暖かく、それでいて風もほとんど無いのでノンビリとした雰囲気が山頂全体を包み込んでいる感じだ。

足慣らしのつもりでここまで登ってきたけれどやっぱり来て良かった。
雪は山は表情を変える。正直、見慣れた感もある丹沢だけどこうして白い雪が山の陰影をいっそう深く染めるとまたそれは新しい輝きで満ち溢れている。

これから烏尾山へ向かいます!んーん、今日の丹沢って意外と雪山してます!
ここからの降りが雪が深くて今日唯一、アイゼンを付けようか迷った箇所
烏尾山までやって来た。
ここからは大倉まで降りる道があるのでとりあえずここまで来てみて足に痛みを感じるようだったら素直に下山しようと思っていた。
だけどヒザの痛みは全く無かったので、少し迷ったのだけれどこの先の塔ノ岳まで行くことにした。ここから塔ノ岳まではせいぜい2時間弱なので何とか頑張れば歩けそうな感じだ。
今年最初の山登りはどこまでも貪欲なのだ。

そうと決まれば栄養補給だ。残っていたオニギリ2個とバナナをここで一気食いだ。
見上げると青い空の中で赤や青など色とりどりのパラグライダーが10機ほど円舞していている。
ポットのミルクティーを飲んでいたら山特有の高揚感を感じてしまってふっと幸せな気分に浸ってしまう。

でっかい雲の下にあるのは三角屋根が特徴の烏尾山荘。ここから大倉へ降っても良かったのだけれど・・・


烏尾山頂からはこうして相模湾も眺望も良いのだけれど、そのため丹沢で一番風が強いのでは?


烏尾山頂からの塔ノ岳。見慣れた景色もこうしてやっぱり雪が少しでも付くとまた違った風情がある。
カラフルなパラグライダーやハングライダーが10機ほど上空をグルグル旋回してました。
行者岳付近の鎖場は渋滞していた。
高さも無くてそんなに危険な箇所ではないけれど今日は岩に雪が付いているので往来に時間がかかっていた。前を降りている人のアイゼンがギリギリと耳障りな音を立てる。

この辺りの尾根は道幅が狭い場所もあるので滑らないように気をつけて歩いて行く。
先ほど行者岳で聞いた話によると昨日、丹沢の山で滑落事故があったらしい。
何も丹沢程度の山で滑落するなんて・・・と思いがちだけど事故は意外と何でも無い場所で起きるものなのだ、気が緩んだ瞬間に起きるものなのだ。
こうして山の事故の話を聞く度に、特に僕なんか単独行だし気を付けなくてはと思うのだけれどこの気持ちの持続もまた難しいのだ。

塔ノ岳山頂から周りをぐるりと見回してみると雲があるのはこの山頂の上だけなのだった。


どんよりとした雲の下の向こう側には都心の町並みが広がっていた。これはお台場付近かな?

塔ノ岳に着いた時にはもうすっかり雲の下だった。
頭上は灰色の雲にすっぽりと覆われ、その雲の下から西日に照らされた都心の街がくっきりと覗いていた。
どうも雲があるのはここ塔ノ岳の山頂だけみたいで雲の下から富士山の裾野も覗いている。

「今日は富士山が見えなくて残念ですね!」そう言ってカメラを構えた男性の表情には全く残念そうな感じは無かった。僕にしてもそれほどガッカリした感じは無くて、むしろこんな天気もまた良いじゃないかとも思える。こうして気楽に訪れられる近くの山だからこその気安さなのだろう。

「あーっ寒いな!」そう言いながら小屋から出てきた人に視線を向けるとそれは畠山さんだった。もちろん僕と面識は無いのだけれど年に400回以上も塔ノ岳に登るということで知られている人だ。寒いなぁと言いながらも短パン姿じゃねーの。おまけに背中の背負子には石油のポリタンが4つも積まれている。相変わらずスゴイおっちゃんだと思う。

さすがにこの時間(午後2時半)になると山頂の人影もまばらです。日差しが無いと急に寒さを感じてしまう。
山頂にある尊仏山荘の中は暖かそうです、宿泊者らしき人達が楽しそうに雑談しています。
塔ノ岳からは花立、堀山とバカ尾根を降りて行く。ここでヒザを悪くしてしまっては元も子も無いので用心しながらゆっくりと降って行く。
前を歩いている女性のお尻が泥で汚れている、きっとどこかでコケちまったんだな。
こっちの男性のザックにはカンジキが、手にはピッケルが、何て用心深い人なのだろう。
この時間になっても下から登って来る人が何人も居て、山小屋に泊まる人なのだろうけれど丹沢って色んな楽しみ方のある懐が深い山だなと改めて思った。

大倉から渋沢へ向かうバスは満員だった。
東の空の下の方、車窓から白い満月が浮かんでいるのが見えた。
少しだけ視線を止めておきたい感じの月だった。
もし赤岳へ行っていたらこの月も山小屋から眺めていたのかもしれないかとも思う。
赤岳へ行った方が良かったのか?その姿を想像してみてもそれはもうどうでも良い事に思えた。
とにかく、こうして今年の山登りが始まったのだ。

また帽子が変わったね
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