三ノ塔、塔ノ岳、震生湖

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆ 2020年12月1日
秦野駅 (6:47) --- 蓑毛 (7:09) --- ヤビツ峠 (8:10/8:20)--- 三ノ塔 (9:50/10:10)
--- 烏尾山 (10:30/10:40) --- 塔ノ岳 (12:00/12:10)--- 大倉 (13:50/13:53)
=== 渋沢駅 (14:06/14:33) === 南町 (14:43) --- 震生湖 (15:05/16:18) === 秦野駅 (16:28)
山日記

今回の「紅葉を追いかける山登り」はネット検索で偶然見つけた震生湖に行ってみることにした。
震生湖は神奈川の紅葉の名所らしいけど今まで知らなかった。
ただ震生湖だけを見に行くのに物足りなさを感じて「ついで」に塔ノ岳に登ることにした。

秦野からバスに乗って終点の蓑毛で降りたのは僕一人だけだった。
出来ればヤビツ峠までバスで行きたかったけれどヤビツ峠行くバスの始発時間は遅く、塔ノ岳に登った後に震生湖に行くのは時間的にかなり厳しかった。

バス停でダウンジャケットを脱いだ瞬間に冷気が体を包み込む。
通学中の元気な小学生の姿をながめつつ凍てついた車道をブルブル震えながら登って行く。
蓑毛から髭僧の滝分岐までは急坂を息が上がらないようにゆっくりと登って行くので体温がちっとも上がらない。
春岳沢を渡ると林道から山道へと変わり木々の間に朝日を受け銀色に光る秦野市街地が見えた。丹沢に朝がやって来たのだ。

ヤビツ峠は平日にもかかわらず駐車している車が多かったけれど、もうどの車にも人は乗っておらず既に出発してしまった後のようだ。
蓑毛から一時間頑張って登って来たら他の人はとっくに出発した後だなんて何だか置いてきぼりされてしまった感じでちょっと悔しい。

富士見橋から山道へ入って行くとヘリコプターがホバリングしている音が遠くで聞こえた。音がする方を見ると塔ノ台辺りで何か工事しているみたいで何度もヘリが行き来していた。

山は変わるもの?変わらないもの?
11年ぶりに丹沢に来て見て変わったな!と思ったこと。それは登山道のアチコチに目新しい木道が設置されていたことだ。自然保護のためだろうか?それとも昨年の台風19号で丹沢も登山道が崩壊してしまったのだろうか?ただ以前から丹沢の登山道は荒れている箇所が多くて気になっていたので自然保護の観点から見れば良い事なのだろうけれど人工物が増えていくってことにどこか寂しさを感じる。

二ノ塔へ登る途中で息を整えようと立ち止まり何気なく振り返ると木々の間に大山が大きかった。
「冬になって木々が落葉してしまうと山は色を失ってしまうけれど空は広くなる」と誰かが言っていたのをふと思い出した。どっしりと動かない景色を見ていたら「やっぱり丹沢の山は良いなぁー」と思った。
「この景色を収めたい」ザックからカメラを取り出そうと思ったけれど木道で立ち止まっていると後続の人に迷惑になるのでは?と思い「他にもっと良い場所があるさ」と撮影を諦めて先へ向かった。でもあの構図はあの場所にしかなかったのですごくっ後悔した。

三ノ塔山頂は眺望が良く、富士山、塔ノ岳はもちろん秦野市街の向こうには相模湾、東に目を向けると江の島が見えるはずなのだけどあいにく今日は空が白く薄っすらと曇っていたので遠望は無理だった。

目の前には秦野を見下ろすように裾野を広げる塔ノ岳の雄大な姿がある。
一旦、烏尾山は低くなっているのでその向こうの塔ノ岳は壁みたいに見える。
この頂に立つと初めて丹沢に登った時のことを思い出す。「あそこまで歩けるのだろうか?」ヤビツ峠から登って来てこの頂から見た塔ノ岳はあまりにも遠くに見えた。
その時の印象が強く僕の中では丹沢一の好展望台になっている。


三ノ塔山頂に着いた。おーっ、避難小屋が建て替えられている。


小屋の中を覗いて見ると・・・新しくてきれいだけど、板の間が無くて泊まれそうにない。残念!

山頂の休憩所が建て替えられていたので中を覗いてみるとテーブルとベンチが並ぶだけの本当に休憩するだけの小屋だった。。
丹沢で残念なのは三ノ塔から檜洞丸の間に避難小屋やテント場が一つも無いことである(有人の小屋はある)。丹沢では水質汚染防止のためキャンプが禁止されているのだ。

日差しが温かく風も無いので外のテーブルで少し早い昼食にした。
この時期は温かいカップ麺とおにぎりに限る。ガスストーブは重いので持って来なかったけどポットのお湯で作るカップ麺も十分に温かかった。蓋を開けると湯気の中に小さな幸せがあるのだ。


三ノ塔山頂は眺望が良く相模湾の遠望も良い。この日は雲が多くて富士山も薄っすらと霞んで見えた。


三ノ塔山頂からの丹沢大山はどっしりと大きくてどこか牧歌的な趣がある。

三ノ塔から塔ノ岳までの稜線歩きは変化に富んだ景観の連続する素晴らしい散歩道だ。
今まで何度も塔ノ岳に登ったけれどいつも今回と同じ蓑毛→三ノ塔→塔ノ岳→大倉というコースばかりを歩いている。
このコースを逆に辿ると一番の目的地である塔ノ岳から下山までが長いので気持ちがどうも散漫になってしまう。
塔ノ岳への一番人気コースは大倉から塔ノ岳までのピストンなのだけどこのコースは単に塔ノ岳の山頂だけを目的に登る人、忙しくて時間が無い人向きだと思う。


温かそうな羽織姿の三ノ塔の端っこに佇むお地蔵さんは塔ノ岳を静かに観望しています。

緑色の小さな三角屋根の上をでっかい白い雲が音もなく横切って行く。
烏尾山荘は人の気配が無く閉まっているみたいだ。

烏尾山は周りを山に囲まれたカップの底みたいな山頂だ。眺望の良い山頂なのだけど見上げる三ノ塔の高さに「こんなに降りて来てしまったことが勿体ない」思える山頂でもある。


三ノ塔から一旦下って烏尾山に登って行く道は草原になっていて心地良い。


烏尾山からは秦野市街地そして相模湾の眺望が良い。だけどこの日は白く霞んでいた。

烏尾山から行者岳までは岩場や細い尾根が続いている。その名前の通り昔は仏教の修行が行われていたのだろうけれど今は岩場には鎖やロープが設置されているので特に危険な場所は無い。ただ気を抜いて歩いていると突然細い尾根の足元に里山の風景が広がってヒヤリとさせられる。

行者岳の先にある1209mピークはザレ場になっていて以前から崩壊が進んでいる。11年ぶりに来て見ても以前と変わらずに緑化むしろや土嚢による植生再生の効果は見られなかった。

新大日への急な道を登って行くと山頂の木陰に建っていたカイサク小屋は荒廃していた。
時間の流れに押しつぶされたような屋根や壁の姿が寂しさを感じさせた。


1209mのピークは崩壊が進んでいて以前から修復作業が行われている。

新大日から塔ノ岳まではほぼ平坦な道で草原と灌木の組み合わせが独特の景観を作っていて晴れていれば遠くに市街地を眺めながらの散策となるのに雲が多くてガッカリだ。

ここまで登って来てふと気が付いた。今日は木道ばかりを歩いてほとんど土を踏んでいないじゃないの?。
丹沢って尾瀬じゃあるまいし何でこんなに木道化が進んでいるのだろうか?
そう言えばこの辺りの登山道は無茶苦茶に荒れていたのを思い出した。雨上がりなどの登山道は歩きにくいのでつい横の草原を歩いてしまってそのために道幅が広くなったり複数の道が出来てしまったりしていた。それが今は木道が出来たために荒れていた登山道が復旧されている。

目の前に塔ノ岳が迫って来て山頂の山小屋も確認出来た。
ところが今にも雨が降るのでは?と思えるほど急に空が曇って来た。
秦野市街地の方を見るとしっかり晴れている。空を眺めると上空2000m付近で雲が水平に並んでいて、その雲の下端が塔ノ岳山頂をかすめる様に次々と流れて行く。
これじゃー山頂から富士山はおろか何も見えないのでは?と嫌な予感がした。

塔ノ岳への最後の登りだ。この辺りはゴツゴツとした岩や砂礫の道で歩きにくいために以前は登山道横の草原がかなり踏み荒らされていた。それが今では柵があるわけでもないのに草原の植生はかなり復元されていた。


新大日を過ぎると塔ノ岳下まで道は平坦になる。目の前の塔ノ岳山頂を雲がひっきりなしに通り過ぎていく。

棚田に着いた。
塔ノ岳山頂は以前から崩壊が進んで裸地化なり、何時頃からなんだろう?土砂
流出防止の小さな策で囲まれてまるで棚田みたいな山頂になった。
三ノ塔、烏尾山、塔ノ岳とどの山も広くて解放感溢れる山頂なのに裸地になっているのが何とも痛ましい。

曇の下の塔ノ岳山頂に眺望は無くただ寒いだけなので記念写真を撮ったらすぐに降りようなどと山頂に着いた途端に思った。

「わーっ!」という声に振り返ると雲が切れて周りの山々が姿を見せていた。富士山も白く霞んではいるけどどうにか見える程度にその姿を見せていた。周りにいた人達が一斉にカメラやスマホを向けたのでやっぱり富士山の存在感は大きなと思う。


塔ノ岳山頂に雲が切れて少しだけ青空が広がった。以前は草地だった山頂も今は裸地になってしまった。


時間がないので記念撮影したらすぐ降ります。


初めて泊まった山小屋がこの尊仏山荘なので懐かしい。

ここで気持ちを入れ替えなければいけない。とりあえず塔ノ岳登山は果たしたので、もう一つの目的である震生湖の予定を確認した。
震生湖へ行く為には大倉を13:53発のバスに乗らなければいけない。
塔ノ岳から大倉まではコースタイムで2時間。今の時間は12:10だから少し急いで降りなければいけない。


塔ノ岳山頂から都心を眺めると2000m付近に雲が並んでいて雲の下は晴れている。

とにかく転ばないように注意しながらドンドンと降って行く。
途中、花立山荘から塔ノ岳を振り返るとどんよりとした灰色の雲に覆われているのにこれから向かう南の空には青空が覗いている。震生湖はどうか晴れていますように!

花立山荘を過ぎたところで畠山さんと遭遇した(会ったではなく遭遇!)。お見かけしたのは何と17年ぶりだ。相変わらず荷揚げ量が半端ない、短パンスタイルも以前のままだ。
挨拶しようと思ったけれど急な登りに挨拶を交わす辛さは分かっているので黙って通り過ぎようとしたら畠山さんから「こんにちは!」とデカい声で挨拶された。まったく息切れしてねぇ!相変わらずスゴイ人だ。

ただただ降るだけの単調な道を降って行くと数多くのマスクが落ちているのが目に付いた。「一度の山登りで必ず一つのゴミを持ち帰る」ことを継続している僕にとっては(山登りを始めた頃は目に付くゴミを全て持ち帰ったけれど拾う体力に限界を感じて今は一つだけにした)見逃せないゴミなのではあるけどコロナ禍の中でのマスク回収はさすがにキツイなぁと思い、そばに落ちていた飴の小袋を一つズボンのポケットに押し込んだ。

僕にとって大切なキーワードを一つ。
「山はきれい好き!」


道のあちっこちに緊急連絡の立札が立っている。


畠山さんと遭遇した。相変わらずのすごいボッカ量。

塔ノ岳から大倉までの登山道は通称「バカ尾根」と言われる展望の無いゲレンデみたいな道が続き大腿四頭筋が悲鳴を上げる。
時間が押していることが気になっていたので平坦な場所に来た時だけ歩く速度を上げた。
人を追い越す時は何だか悪いような情けないような気分になってしまう。バスに間に合わないから急いでいるだけなんだけど他人にしたら急いで降りるせっかちなオジサンはただウザイ存在だけなのだろう。

見晴茶屋まであと300mという所まで下って来ると紅葉したカエデが立ち並ぶ場所に出た。これまでこの時期に丹沢に来たことが無かったのでこんな紅葉した場所があることを知らなかった。
紅葉を通した小さな陰影が地面で揺れている。しばらく立ち止まって眺めていたいけど写真を撮るだけの時間しかなかった。


見晴茶屋の上付近はモミジの紅葉に包まれている。この時期に来たことが無かったので嬉しい出会いだった。


ここでグズグズしたいけれどバスの時間が気になってゆっくりできない。せわしなく撮影するだけだった。

観音茶屋を過ぎ、道が平坦になった場所で20人位のパーティーを一気に追い越した。
こんな細い道でマスクをしていない20人をマスクをしていない僕が追い越すってコロナ禍感染は大丈夫だろうか?外だし大丈夫だろうな?ちょっと心配な一瞬だった。

登山道が終わって車道に出た。大倉バス停もすぐそこだ。
この時点で完全に小走り状態になっていた。

大倉バス停には発車3分前に到着出来た。
ザックから急いでマスクを取り出してバスに乗り込む。
背中の汗が冷たかった。


何で今回はこんな落ち着かないバスの時間を気にするような登山になってしまったのか?それは震生湖行きのバスが少ないからである。
調べてみると秦野駅から震生湖へ行くバスは一日一往復だけで(秦15)渋沢駅からは出ていない。
更に調べてみると秦野駅←→渋沢駅間のバスが(秦18)震生湖の近くまで行っていることが分かったがただその本数も少ない。
バスの乗り換えを考えると大倉発13:53に乗らないと震生湖へ行けないのだ。
もちろんバスを使わずに歩いても行ける距離なのではあるけれど知らない街を歩くというのは意外と迷いやすいので今回はバスで行くことにした。

渋沢駅から秦18に乗り南町で下車し50m程先の交差点を右に進むと(交差点に震生湖入口の表示有り)道は上り坂になった。
下に秦野市街地と丹沢の山々を眺めながら20分ほど歩いていると震生湖へ着いた。


紅葉の名所らしい震生湖。ネットでは紅葉の見ごろと書かれていたけれど一部の木だけが紅葉していただけだった。


風が無かったので湖面に周りの映り込みがスゴイ。早朝とかに来たらまた違った景色だったのかもしれない。

入口付近には駐車場もありバスが2台停まっているけど震生湖ってバスで来るほどの観光地なのだろうか?
森の中を5分ほど降って行くと湖に着いた。
ネットの情報では震生湖は紅葉の名所であり今が見頃ということだったけれど紅葉している木は思っていたよりも少なくてガッカリした。
湖の淵に沿って一周回れる道があったので歩いてみると散歩している人より釣りをしている人の方が多いという感じだ。

歩いているうちに紅葉した場所もあるのでは?と期待していたけれど期待のまま湖を一周してしまった。
本当にこの湖は紅葉の名所なのだろうか?というのが正直な感想だ。もしかしたら一週間後に来たらもっと紅葉していたのかもしれない。

一時間ほど湖を散策すると今回の山登り&湖散策は終了。


震生湖の守り神として水の神とされる琵琶弁財天が鎮座している。

震生湖は大正12年9月1日の関東大震災で沢がせき止められて出来た湖でバス停横にその供養塔があった。

こんな町外れのバス停にちゃんとバスが来るのだろうか?と心配させるようなヘンピな場所にバス停はあった。


震生湖前の駐車所からは丹沢の山々が一望できた。あそこを歩いていたのだと思う長い一日の終わり。

やって来たバスの乗客は僕一人だけ。
バスは市街地に向かって下って行く。

車窓外のはピンク色に染まる丹沢の山々の姿があった。
慌ただしい一日の終わりを告げる寂し気な光景に見えた。

GO TO トラベルの利用自粛要請が出た。
これから本格的な冬に向けて凍り付いて行くのは?山それともコロナ禍の人々?

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