北横岳、天狗岳

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:ロープウェイ)

◆1月31日
八王子(6:34) +++ 茅野(9:29/10:00) === ピラタス(10:55/11:00) *** 山頂駅(11:10/11:30) --- 北横岳(横岳)(12:15/12:40) --- 山頂駅(13:05) --- 五辻(?) --- 大石峠(?) --- 麦草峠(14:20/14:35) --- 丸山(15:20/15/35) --- 高見石小屋(小屋泊)(15:40)

◆2月1日
高見石小屋(7:10) --- 中山峠(8:20/8:40) --- 東天狗岳(9:20/9:25) --- 西天狗岳(?) --- 東天狗岳(10:15) --- 中山峠(10:40) --- 黒百合ヒュッテ(天狗ノ奥庭散策)(10:45/12:50) --- 渋ノ湯(13:55/14:55) === 茅野(15:55/16:31) +++ 八王子(18:01)

山日記

なぜ山に登るのか?
もしそう問われたら僕の答えは「綺麗な景色を見るため!」。”挑戦”、”制覇”といった言葉は僕の山登りにはくすぐったい。ただただ自然の作り出す絶対的な美に引かれるだけだ。
雪山に関して言えば正直に言ってあまり綺麗だとは思わないので冬の間はもっぱら低山ハイクを楽しんでいた。ところが「やまのたより」(やまさんのHP)のスノーツリーの写真がボディーブローみたいにジワジワと効いてきたところに年末にテレビで見たブラッドピットの”seven years in tibet"での登山シーン、野口健さんの”落ちこぼれてエベレスト”で七大陸最高峰制覇の記録を読んだりと能天気な山ヤ魂をビシビシと刺激するような追い討ちが続いた。
極めつけはサイト”八ヶ岳ミキヤツ登山教室”での言葉だった「八ヶ岳は12月から5月までの半年は雪山です。雪山を知らないということは八ヶ岳の魅力の半分しか知らないということです!」
ここまで言われたらもう行かないわけにはいかないっしょ、もう!

前回の七面山登山の時に暖かくなるまでテント泊は無理だ!と言う言葉を脳天から叩きつけられたので今回は素直に山小屋に泊ることにした。ただ山小屋に泊るのは2002年8月以来一年半ぶりなのでどうも落ち着かない。
おまけにアイゼンを持って行くのは2000年5月以来4年ぶりなので雪の上を歩くことはすっかり忘れてしまっている。
そんなわけだから、今回は情けねーがピラタスからロープウェイのお世話になり気楽に雪山ハイクを楽しむ事にした。

「うわっ、やば、やばい!」
ロープウェイ駅を出て直ぐに僕の顔はニンマリして嬉しい悲鳴をあげた。
久しぶりの雪山だからこんなにも太陽の下の雪面が眩しいことをすっかり忘れていた。駅を出た途端に地面から何千という光の束に目の前の彩色は散り散りに消えてしまった。慌ててサングラスを着けるとぐっと魅力的な景色が戻って来た。


坪庭から少し登った場所から見た坪庭と縞枯山
雪の上をキュッキュッと音を立てながら歩るいてゆく。風は冷たく頬をピリピリと刺激するが日差しが暖かいので気にならない。
「えーやん、えーやん!」こんなにも雪の上を歩くことって楽しいことだったっけ?坪庭を歩きながら単純に面白いと思った。

坪庭を過ぎると樹林帯の登りになった。森はモコモコの雪を真っ白に着飾ったスノーツリーのオンパレードでその直ぐ上には滴り落ちそうな青い空が広がっている。木々の間から今歩いて来た坪庭、その白い平原の向こうには縞枯山が見えて、ただただもー!綺麗だなとしか思えない。

僕の周りには思ったよりも登山者が多かったが、ここには夏山の汗ダクダクのコンチクショー闘魂山登りなんて無く、どの人の顔もやっぱり楽しそうだった。よかった、よかった!

北横ヒュッテは雪に埋もれるように建っていた。煙突からは白い煙が青い空を泳ぐようにユラユラと立ち昇っていてホッと暖かさを思い出させる。
こんなに雪が積もっていたら池だかなんだか分からないと思うのだけれど七つ池への道にもしっかりとトレースがついているので行ってみる人もいるみたいだ。小屋横のベンチでは食事している人、アイゼンを装着している人の姿が多い。
ここから少し登ればを北横岳山頂だ!蓼科山を間近に見ることが出来る。
ピラタスへ向かうバスの車窓から見た蓼科山は樹林の濃い緑と雪の白のまだら模様が空という大海原で飛沫を上げているように輝いていて見え、今まで雪山は綺麗だと思ったことが少なかったので「あれっ雪山も中々やるなー!と思ったのだった。
その景色をもうすぐ間近に見ることが出来ると思うと自然と足が速くなった。登る人、降って来る人、皆の足にはアイゼンがくっ付いていたけれど、ここでアイゼンを着けるのもまどろっこしいのでそのまま登って行った。


一面のスノーツリーの中を歩いて行くと北横岳ヒュッテが雪に埋もれるように建っていた。

北横岳(地図では横岳)からの蓼科山
やっぱり来て見て良かった!と思った。ロープウェイ駅から少し登っただけでこんなに素晴らしい景色が見られるなんてなんて贅沢なんだろう。蓼科山の遥か奥には北アルプスの白い頂が浮かべている。
手袋を外してカメラを構えると切れるようにメチャ手が冷たい。あまりに冷たいので一枚撮るたびに手袋をはめて手を温めた。

北横岳からの降りはドンドン降れるのでご機嫌だ。雪が積もっていると足の着く場所をいちいち気にしなくて良いので夏よりも短時間で降りられるんだねー。
たまに滑って転びそうになるけどそれがまた楽しい、ギュッギュッって雪を踏みしめる音もいい、風が吹くと粉雪がキラキラと目の前を舞う、テルモスのミルクティーも美味しい、鼻水がタラタラと流れ出てくるのさえ楽しく思えてくる。
雪山は景色も良いが子供に戻ったように遊ぶことが何よりも楽しい!あー実感!

予定では北横岳ヒュッテか縞枯山荘に泊まって、翌日は高見石付近を散策しようと考えていた。ところが登山道の雪はしっかり踏まれているのでかえって夏よりも歩き易く、もっと歩いてみたい!もっと楽しみたい!という思いが募ってきた。
という訳で予定変更、麦草ヒュッテか高見石まで歩いてみることにした。
縞枯山を登る時間は無いので五辻を通って行くことにしたが問題は五辻にトレースがあるかどうかだ?僕自身、北八ヶ岳には何度も来ているのにいつも縞枯山か雨池の方ばかり通って五辻は歩いたことがない。、もしかしたらこのルートはただでさえ人気が無く、ましてこの季節に歩く人なんか居ないんでないの?と心配になった。


太陽の光が燦々と降りそそぐ雪原はどこまでも明るい遊び場。
坪庭から駅に向かう道から分かれて五辻へ進む。はたしてトレースはあるだろうか?と道を見たら左官屋がコテでならしたように真っ平なトレースが延びている。
前方に視線を移すと、5、6人のクロカン集団が歩いてきた。「あー、この道、クロカンが盛んなんだねー」と思っていると今度はスノーシューの集団がわっせわっせと歩いて来た。「これが雑誌で見かけるスノーシューってやつか!」
道を空けようとトレースが無い所に除けるとその途端にズボッと20センチほど踏み抜いてしまった。「あーこの道、トレース上はしっかり踏み固められているが、そうでない所はこんなにフカフカで、雪もこんなに積もってんのか!」と慌て足を引き抜いた。
この道、人が居ないどころではない。スキーやスノーシューを着けた人がズンズン、ズラズラと大勢歩いている。
んでぇ、気がついたんだけど、登山靴で歩いているのって僕だけなんだねー、こんなにもスノーシューが一般化しているなんて、全然知らなかったよー。
スキーやスノーシューを履いている人から見たら「わーっ、こいつ登山靴だけで歩いているよ!」とバカにされているかもしれない。僕にはスキーもスノーシューもにゃーずら!これじゃ細うで繁盛記みたいなハイクになってしまっていた。(例えが古くてゴメン!)
オリギリ平から狭霧苑地に出て車道を歩き野麦峠まで行ってもよかったのだけれど、それじゃーあまりに味気ないので大石峠を通って行くことにした。
だけどこのオリギリ平から大石峠までの道はとても疲れたのだった。道にはスキーやスノーシューのトレースはしっかりあるのだけれど踏み固まってなくてトレースの上を歩いても登山靴では5〜10センチくらいズボッと沈んでしまって一歩踏み出すたびにため息が出てしまう。ふうっー!

まったく歩きづらく、汗ダクダクになりながら歩いていたけど大石峠からはまたしっかりと踏み固まっていたのでそこからは楽に野麦峠に到着出来た。
麦草ヒュッテから丸山に登ろうとしていると上の方から男性が三人、アルペンスキーで降りてきた。三人中、一人はへたっぴーで転んでばかりだったけど大はしゃぎして本当に楽しそうだった。
登山道は良く踏まれていたが展望は無く、重そうに雪を抱えた木々の間を延々と登っていくとパッと丸山山頂は展望が良くなり、たおやかな中山が見えた。


麦草ヒュッテからの茶臼山 クロカンが楽しそうだった。

高見石小屋 暖かい小屋、25人ほどの宿泊者でゆったりと寝られた。

高見石小屋に着いてみると客は5,6人だった。「やっぱこの季節は登山者が少ないなー」と思っていたらこの小屋主宰のクロカン&スノーシューツアーの客が20人ほど戻って来て一気に賑やかになった。
夕食までの時間はコタツに入っての雑談タイム。テントと違ってやっぱり山小屋だと話が弾む。暖かいのでシミジミと落ち着いて話が出来る。

こんなにのんびり、背筋をシャンと伸ばして夕食を食べるのも久しぶりだ。テントはタッパが無いのでどうしても猫背になってしまうし、あぐら姿勢も結構疲れる。
それに部屋が暖かいので料理やホットウイスキーが直ぐ冷めないのも嬉しい。

食事が終わると2階に上がって再びコタツで座談会だ。単独行の男性から色々と冬山の話を聞かせてもらう。知らない事ばかりで話が弾み気がついたら8時半だった。1階の食堂ではまだ宴会が続いていたが寝ることにした。僕の場所は階段を上がってすぐ正面だったので下の喧騒がビンビンと聞こえてくる。うるさくて眠れるかな?と心配したが布団に入ると直ぐに眠りに落ちた。

「すみません!!!」女性の声で目が覚めた。1階の談話(はっきり言って宴会)がうるさくて眠れない女性がとうとうブチギレて注意したようだ。悪いのは一階の奴らだということは分かる、ただどうせ注意するなら1階に降りて注意して下さい、お願いしますよ!
階段の上、つまり寝ている僕の直ぐ頭の上で大声を出すのでびっくりして起きてしまいました。「下ではまだ宴会が続いているみたいだけど今何時だろう?」とムニャムニャしているうちにまた眠ってしまった。

翌朝の朝食は6時半で日の出の時間と重なりそうだったので朝食前に展望台に登って行った。雪が積もった白駒池だけがポッカリと暗闇にぼんやりと白く浮きあがっていて寒さのせいでどこかシニカルな表情に見えた。東の空は薄紅色にほんのり色付いていたがやがて起き出した空の白さに溶けていった。

小屋に戻っての朝食はパン、ハムエッグ、サラダそれに紅茶だった。テントでの朝食はカレーライスばかりなのでこれはこれで美味しかったけど僕としてはやっぱり白いご飯と熱い味噌汁が恋しいのでした。


高見石展望台から朝の白駒池 薄っすらとした朝焼けに街の明かりが光っていた。
小屋の入り口に着けてある温度計を見ると‐10℃。なんだこの前の七面山と変わらないじゃん!」と思っていたら小屋番さんの「こんな暖かい日は珍しい!」との声、なんだか得した気分で「よっしゃー!天狗っー、待ってろよ!」と雪を蹴って登山道を歩き出した。

中山山頂はほぼ360度の大パノラマ 縞枯山、蓼科山
 
中山からの天狗岳 待ってろよー!
中山山頂からの展望は良かった。「ここってこんなに展望が良かったっけ?」ここはピークらしくないので今まではノホホンと通り過ぎてしまっていたかもしれない!
雪山=遭難=死!そんなイメージの雪山なのにこんなに人が多いとはちょっと意外だった。中高年というか、それよりずっと年上のパーティーがでかザックを背負っていたり、単独行しかも女性の単独行の姿にも驚いた。

中山峠付近からの天狗岳の姿にウズウズ!

それに観察してみると装備もマチマチだ。ノースフェイスのジャケット、プラスチックブーツ、12本アイゼンでバッチリと決まっている人も居れば、僕のようにレインウェアでちょっとショボイ奴、かと思えば街中で着るようなジャンパー、靴は布登山靴とヤマケイJOYから怒られそうな格好な無鉄砲野郎までさまざまだ。

中山峠でアイゼンを着ける。要らないかな?とも思ったがせっかく持って来たんだから一度くらいはつけておこうと思ったのだ。でも着けて正解だった。雪が踏み固められて硬くなっている箇所があったのでこりゃつぼ足で登ったんじゃ大変だろう。


天狗岳に登る途中からの天狗ノ奥庭
 
鞍部からの赤岳、阿弥陀岳 とても登れそうにありましぇん!
樹林帯を抜けると風が強くなり、天狗岳山頂を見上げると雪煙が舞っている。
雪山は始終、登山者の顔色をうかがっているような油断のならなさがあるように思える。思わずネックウォーマーを鼻まで引き上げると気持ちを引き締め登って行く。

東天狗岳山頂は風が強かったが展望は良かった。南の方向に硫黄岳がでっかい、そしてその奥には赤岳、阿弥陀岳が真っ白く峻険な姿を見せている。
西天狗までピストンする。鞍部まで来ると今までの風の唸るような喧騒が遮断され穏やかで雪の上を歩くのがこんなに気持ちが良いものかと改めて思えてくる。ごっきげんな気分でmy足跡を雪の上に刻んで歩く。


鞍部は風が無く、西天狗岳へはゆったりとほっつき歩き

西天狗岳山頂は雪で一面真っ白 展望も良し!
西天狗岳山頂に登るとここも風が強い。東と違ってこっちの山頂は雪で一面真っ白だ。
その真っ白い雪の中で赤岳、阿弥陀岳、それからちょっと遠くなってしまった蓼科山を眺めていると暖かな太陽の光も吹きぬける風も全てが自分一人だけのものだと思えてくるから不思議だ。

天狗岳からの降りは不慣れなアイゼンを引っ掛けないように注意しながらで降りる。
だけど暖かな日差しの中で青空に弾かれたように鎮座する天狗岳の姿を見ると満足度100%で思わずニカーッなのだ!
鼻を覆うマスク、それに手袋が無かったらもうー、指で鼻の穴をほじって丸めた丸薬を空にポンと弾いてみたい気分だ!

黒百合ヒュッテ前にはテントが数点あった。ついついメラメラ憧れ視線で見てしまう。ぺグはどうやって固定しているのだろう?テントマットはもちろんあるだろうな!そのうちに冬用テントを買って必ずここにテントを張ってやろう!

渋ノ湯から茅野へのバスが出るまでには時間があったので好きな天狗ノ奥庭を散策することにした。
小屋の前の斜面を登っていくと今降りて来たばっかりの天狗の姿だ。やっぱり天狗はここからの姿が一番良いと思う。
山頂にいるときには快晴だったのに今は刷毛ではいたような雲が山頂の上を次々と通過している。雲が切れると太陽の光が差し込み鞍部を銀色に輝かせる。鞍部を歩いている人達はただの小さな黒い影としか見えないけどその楽しそうな気持ちはここまで届いて来そうだ。


天狗ノ奥庭からの天狗岳 天狗をはやっぱりここからが一番!

天狗ノ奥庭からの西天狗岳
雪化粧の木々が綺麗だ。

西天狗岳を見ると山頂下の木々は真っ白く雪化粧され、ちりめん模様みたいな造形美がどこか寂しく、そして綺麗だった。

黒百合ヒュッテから渋ノ湯へのんびりと雪の登山道を降ってゆく。
時々、木々が切れて間から天狗岳や中山が見えるとこんなの良いな!と思う自分がいる。
雪山はつまらないと思っていたけど今回は八ヶ岳にうっちゃられた感じだ。
古い感情も未来への扉をいつも捜そうとしている。冬はお行儀良く低山と決めていたけどしばらくの間その感情とおさらばするかもしれない。
でもこれから先、雪山への扉を開けることがあるのだろうか?とも考える。
そぞろ歩きながら白く雪に覆われた森を見て、そして真っ青な空を見上げた。
ただに言えるのはウヒョ−ッと喜んでいる自分が今ここにいるっていうこと。

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