オプタテシケ山、十勝岳
行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆8月6日
南沼キャンプ地 (4:30) --- 三川台 (5:50/6:00) --- ツリガネ山 (7:00/7:10) --- コスマヌプリ (9;20/9:30) --- 双子池キャンプ地 (11:00/11:30) --- オプタケシケ山 (13:30/13:35) --- ベベツ岳 (14:40/14:50) --- 美瑛富士キャンプ地 (15:50) テント泊)

◆8月8日
美瑛富士キャンプ地 (4:30) --- 美瑛富士 (5:30/5:35) --- 美瑛岳 (6:55/7:00) --- 十勝岳 (9:25/9:40) --- 三峰山 (11:40/11:45) --- 富良野岳 (13:25/13:30) --- 十勝岳温泉 (16:00/17:27) === 上富良野 (18:10)

山日記 (オプタテシケ山 編)

南沼キャンプ地から歩き出すとすぐに南沼があった。
思ったよりも大きくてこの沼の水を採っても良かったのでは?
「こりゃ、大変だぞー!」
昨日、トムラウシ山頂から見た十勝連峰は想像以上に遠くて高かった。
アイヌ語では十勝山塊とオプタテシケ山を併せた十勝連峰をオプタテシケ山(槍を連ねた山(直約では”槍がそこではねかえった山”))と呼んでいる。たしかに十勝連峰は三角形の山が幾重にも連なって見える。

今日の行程は南沼キャンプ地から双子池キャンプ地までだ。
長い道程では無いけれど天気予報では晴れのち曇りだったので少し早めにキャンプ地を出発した。
南沼まで降るとその先は平坦な尾根歩きになった。
朝は熊が出没しやすいと聞いたので熊鈴を手に持ってジャンジャンと鳴らしながら歩く。手に持って鳴らすぐらいなら小学生の頃、音楽の授業で使った鈴やタンバリンを持って来た方が良かったのではないかという気もする。

三川台までは展望の良い尾根歩き。目覚めたばかりの十勝連峰もこうして絶えず見えている。
「あーっ縦走って良いなぁ!」三川台までは展望の良い草原地帯が続き、こんな場所を朝からノンビリ歩けることを幸せに思う。

眼下にカール状の草原を見ながら歩いて行くと、誰かビバークしたのだろうか?ずっと先の三川台にテントがいくつか張られているのが見えた。
しばらく歩いていると前からデカザックを背負った人達が歩いて来た。この人達がさっき見たテントの住人なのだろう。
ここでお互いに水場の情報交換をし合う。縦走路にある小屋のほとんどは無人小屋なので北アルプスみたいに小屋で水を買うことが出来ない。必要な水は全て自分で調達しなければいけないのだ。
今年は例年よりも雪渓が消えるのが早いらしく、昨夜泊まった南沼キャンプ地でも沢に水の流れは無く溜まり水になっていた。はたしてこの先のキャンプ地には水があるのか心配だ。
今夜泊まる予定の双子池キャンプ地の水場の状態を尋ねると、水場は涸れる寸前で細くしか出てないと言う事だった。もし心配だったら三川台下の水場で水を汲んで持って行った方が良いと言われたがそこからキャンプ地まで水を持って歩くのは大変なのでキャンプ地の水場を当てにすることにした。

三川台へ着てみると山頂にはまだテントが2張あった。三川台の手前にもテント跡があったし、地図にはテント場とはかかれていないけれど水場も近いこの山頂で幕営する人は多いみたいだ。
ただ気になるのはガイドブックにこう書いてあったことだ・・・北海道の山ではキャンプ指定地以外で幕営すると熊に襲われる危険があるのでキャンプは指定地で・・・これはどうなんだろう?

歩いていてこんな池塘や草原が次々と現われると縦走ってやっぱ面白い!と思ってしまう。


三川台とツリガネ山との鞍部。展望が良い。
だけどこれから向かう山の高さにはうんざりだ!

三川台からは笹原の中を降って行くと展望の良い鞍部に出た。ここから見るとツリガネ山もその先のコスマヌプリ山も予想以上の高さにため息が出た。
ただ朝には多かった雲がいつの間にか無くなり、スッキリとした青空が山の上にまで広がったのは嬉しかった。単純だけどやっぱり晴れていると気分が良いものだ。

ツリガネ山頂は展望が良くオプタテシケ山やトウムラシ山が素晴らしい。
山頂にいた男性が遠くを見ているので一体何を見ているのだろう?とその視線の先に目をやるとそこにはエゾシカがいるではないか!
一頭の雌鹿が200mほど下を歩いている。生まれて初めて見るエゾシカは丹沢で見かける鹿と違って明るい茶色をしていた(ただこれは単に見た季節の違いなのかもしれないけれど)。

ツリガネ山を過ぎた辺りから登山道は急に狭くなり、それにあまり踏まれていない感じになった。
これなんだよっ北海道の山は!あまり人が入っていない山にはまだまだ自然がたっぷりと残されている感じがする。こんな藪っぽい道を一人進んでいるとポンと自然の中に放っぽり出された感じがしてブリッと闘争心もかき立てられてしまう(この闘争心もコスマプリからしぼんでしまう)。
前からやって来る登山者もデカザック野郎ばっかりで(小屋が無いので当たり前)またか?と思ってしまうほどしつこに水場の情報を尋ねられる。ここでは登山者の一人一人がシッカリと山に、自然に向き合っているんだねー!
おーし、ここからがそのまんまの北海道なのだ!どっぷりと浸かるのだ!無垢な自然を肌で感じるのだ!とこっちとしても元気が出さないわけにはいかない(この元気もコスマプリからヘコンでしまう)。

ツリガネ山から見た三川台は平らな緑の台地。その下のカール状の湿地帯もきれいだった。
ツリガネ山を降ってコスマプリへの登りになった辺りからハイ松のブッシュ帯に変わり、デカザックを背負いながらハイ松の抵抗に逆らって登るって事がいかに大変であるかを全身で実感することになる。たいした登りでもないのにやたらと息が切れ、10歩歩いては息を整えるようにして登る。

コスマプリを過ぎ、カブト岩へ緩やかに降って行くと道にはみ出しているハイ松の枝が少なくなってこの辺りは楽に歩くことが出来た。

ツリガネ山から見たコスマヌプリとオプタテシケ山。
左側は緩やかなハイ松帯と草原になっていてエゾシカを見つける。
カブト岩から双子池へ向かって降りて行く。しばらくはハイ松帯だったがその後には背丈ほどの笹原が待っていた。
一応しっかりと道は踏まれてはいるけれど熊笹が完全に道を覆い隠していて、前方を見ると笹原の中に少しく低くなっている部分が線になって先へ延びているのでかろうじてそこが登山道なのだと分る。笹原というよりも笹藪と言ったような道だった。
見るからにやっかいそうな笹藪だったのでザック横に付けた三脚やテントマットを持っていかれない様にベルトを締め直すと笹藪に突入して行った。

物凄い熊笹のブッシュ。ちょうど熊笹の背丈が顔の高さなので一歩足を出すたびに枝や葉っぱが頭や顔を叩くのでイライラする。
あまりにもひどい薮なので途中から獣道に迷い込んでしまったのでは?と思うほどだ。
ふと前方を見ると1mほど先に水溜りが・・・あんな中に落ちてしまう奴はアホだな!と思った瞬間に足元にもあった水溜りにズルリとはまってしまった。右足は完全に水没、ズボンは泥だらけ、こりゃ最悪だ!右足の靴がグチャグチャと気持ち悪い音を立てる。
もうこうなると”北海道の大自然”がやたらうっとおしくなる。さっきまでの元気は右足が水没した時点で完全消滅した。

コスマヌプリ付近からトムラウシ山を振り返る。
展望は良かったけれどハイ松のブッシュでかなり疲れた。
とにかく、どこか開けた場所に出たい!
双子池付近でやっとブッシュから解放されたものの今度は道がぬかるんで歩けやしない。靴もズボンの裾もすぐにドロドロ状態。
地図を見るとこの辺りには水場の印が有るけれど、どこも泥水の水溜りばかりでこの水を飲むのにはかなり勇気がいると思う。

やっと地面が硬くなった!と思ったらそこが双子池キャンプ地だった。
キャンプ地を示す看板も無いくらいだからキャンプ地と言ってもテントを張れそうな平坦な場所がポツポツと点在しているだけの場所だ。
とにかくここが今日の宿泊地だ。靴の中がジュクジュクで気持ち悪いので水場を確認したらとっととテントを張ってしまおうと思った。
ところが20分ほどテント場の辺りを探したけれど”細く水が出ている”箇所は見つからない。有るのはほんの少し水が溜まった涸れた沢ばっかりだった。
昨夜泊まった南沼キャンプ地の水場もすでに溜り水になっていたけれど少しは水の流れがあった。だけどここのは本当の水溜りだ。水はたとえ少しでも流れていないと腐敗して飲めなくなってしまう。このキャンプ地にある水溜りもどこもやばそうな感じがする。

靴の中はグチャグチャ、ズボンは泥だらけ、そしてろくな水場の無いキャンプ地・・・最悪だな!
時計を見ると時間は11時20分、天気も晴れている。今から出ればこの先の美瑛富士キャンプ地まで行くことが出来る。だけど人から聞いた話では美瑛富士キャンプ地の水場もすでに涸れてしまって、水を得るには下の沢まで降なければいけない状態らしい。
行くか?止めるか?随分迷った。でも少なくともここの水は飲む気はしないし、美瑛富士キャンプ地はどうにか水を確保出来るみたいなので行くことにした。

カブト岩から双子池へ向かって降りて行く。
この時にはこの先に笹藪、ぬかるみが有ることを知らないので余裕があった。
見るからに急なオプタテシケ山を一直線で登って行く。
オプタテシケ山の取り付きははっきりせず、岩のかすかな踏み跡とたまに見つかるかすれたペンキ印を頼りに登って行く。
登山道は山頂に向かって一直線で高度をグングン稼げるのは良いけれど足がガクガク成ってしまうほどの急登だった(今回の黒岳から富良野岳までの縦走中で一番ハードだった)。
登り出して1時間ほどするとやっと登山道がはっきりしてきた。これで余計な気を使わなくて済むと思うと気持ちが楽になった。ただ空を見上げるとさっきまでの天気がウソのように曇が多くなっている。
オプタテシケ山頂は晴れた空の下で踏みたい!
下を見るとまだ双子池キャンプ地が見えているのでいっそここから引き返し、明日晴れてからもう一度オプタテシケ山へ登った方が良いのではないか?とも思った。
だれどここで引き返したらせっかく登った1時間が無駄になってしまう。そこは生まれ付いての貧乏性、晴れの山頂よりここまで登ったことが無駄になることの方が優先してしまって結局、美瑛富士キャンプ地まで行くことにした。

オプタケシケ山はトムラウシ山側から見ると端正な三角錐に見える。だけど実際に登ってみると”C”字型の山頂で双耳峰、あそこが山頂だな!と登って行くとまだ先があってガッカリした。
そしてやっと登ったオプタケシケ山、山頂に着いた時には既に頭上は灰色の雲に覆われて周りの景色もボンヤリと霞んで見えるだけだった。
風が強くて寒いのでレインウェアを着込むと急いで写真撮影、登頂の喜びを感じる間も無くとっとと降って行った。

晴れていたら歩くのが気持ち良さそうなベベツ岳を過ぎ、石垣山へやって来ると登山道の2mほど上の岩に腰掛けている男性が居た。
挨拶して通り過ぎようとすると「あそこに熊がいますよ!」と声をかけられた。男性の指し示す方向を見ると200mほど下の草原に3頭の熊の姿が見える。双眼鏡で見ている男性によると親熊1頭に小熊2頭ということらしいのけれど肉眼では判別出来ない。
熊とは距離が離れているので恐さは無かったけれど今自分はヒグマの生息地にいるのだという事を改めて認識させられる光景だった。それにしてもここからでは熊の姿は木の陰か岩くらいにしか見えずこの男性も良く見つけられたもんだ!と思う。

双眼鏡と望遠カメラ、それに完全防寒着で身を固めたこの男性、熊を撮影しているのかな?と思ったが話を聞いてみるとナキウサギの撮影をしていると言うことだった。
「ナキウサギは人を恐れないため、こうしてカメラを構えているとすぐそばまで出て来ますよ!」本当だろうか?僕は大雪山からここに来るまでに何度もナキウサギの鳴き声を聞いたけれどその姿は一度も見ていない。そんなに簡単に見ることが出来るのだろうか?

オプタケシケ山頂。どんよりとした曇り空に変わった。寒いのですぐ降りる

石垣山を降りながらナキウサギの声が聞こえると立ち止まっては声の方向を注視していた。
そうして2度目に立ち止まった時、岩の上にいるナキウサギの姿をとうとう見ることが出来た。
その姿は茶色いネズミといった感じでカワイイ奴、こんなに小さいんじゃ良く見ないと中々見つけられないなと思う。
急いでザックの中からカメラを出したけれどもうそこにはナキウサギの姿は無かった。
その後はカメラを持ったまま降りることにした。すると途中でまたもやナキウサギの姿を発見!今度こそはと急いでカメラを向けたけれどファインダー内のどこにもナキウサギの姿は無かった。

美瑛富士キャンプ地は赤色粘土の地面の上をチョロチョロと数本の水が流れていてどのテント跡もジットリと湿っていた。
先にテントを張っていた男性に水場はどこですか?と尋ねると2mほど下にある水溜りを指し示した。そこは地面の上を流れて来た水が寄り集まっただけのただの水溜り、本当にこの水が飲めるのか?心配になってしまった。
さらに3mほど下って行くと小さな涸れた沢があるのだけれどここに溜まった水は全く流れていなのでもっと飲めそうにない。
もしキャンプ地の水場が涸れていたら水無川の源流まで登山道を降りて行って水を汲むと良いと教えてもらっていたけれで地図を見るとかなり下まで降りなくてはいけない。もうそこまで水を汲みに行く元気もないので仕方なくここの水溜りを利用することにした。
深さ5センチほどの水溜りを見ると底に死んだイモ虫が沈んでいた。その死骸をつまんで出したけれど本当の飲めるのか?変な病気になるのでは?とまた心配になってしまった。

この日、テント3張り、避難小屋には8人だった。
キャンプ地は美瑛富士のすぐ下に位置しているけれど白くガスってしまって美瑛富士はもちろん、周りの景色は全く見えなかった。
ラジオから「ジンギスカンと角ハイボール」というサントリーのコマーシャルがやたら流れる。
勘弁してくれーっ!あーっ、お酒飲みてぇー!と思いながら眠った。


翌朝、テントから顔を出して外を眺めると一面ガスって真っ白け。
天気予報では晴れとなっているので朝食を終えるとテント内でテントとマット以外のパッキングを済ませガスが取れるのを待った。

午前7時、小屋に泊まっていた人もテントの二人もとっくに出発してしまった。雨が降っているわけではないので歩こうと思えば歩けるけど十勝岳から雄大な展望を見てみたいのでこのまま待つことにする。

午前9時、もうこの時間からでは十勝岳へ登って今日中に下山することは出来ない。ガスが取れたらせめて上ホロ小屋まで行こうと計画変更する。

午前11時、もう上ホロ小屋まで行く時間もない。今日はここに停滞することに決定。ガスが取れたらベベツ岳までピストンすることにする。

午後2時、相変わらず風が強く、テントは真っ白なガスの中。たまにガスが切れると太陽の光が明るく差し込んで来たり、晴れた富良野市街が見えることもある。もしかしたらガスっているのはここだけで山頂付近は晴れているのでは?と思ったりもするがそうだとしても今更どうしようもない。じっとしていたら気持ちが押しつぶされそうなのでカメラを持って石垣山へ向かう。

岩の上にじっと座ってナキウサギが出てくるのを待っているのはどうも自分の性に合わない。寒いこともあって石垣山からすぐに降りてしまう。

午後4時、テントの中で梅昆布茶を飲んでいると外で何やら音がする。顔を出してみると外人の男性が一人立っていた。
話かけてくるけれど何て言っているのかさっぱり分らない。ただ空のペットボトルを手にしているので水場を探しているのだと思った。「あそこの水が一番 beautiful !」と言ったら首をかしげている。日本に来るんだったら日本語ぐらい憶えろよ、最低でも「すいまめ〜ん!」くらい憶えて来いよ!
喋るのがまどろっこしいので外人さんを水場まで案内した。
「Oh, water !」外人さんも水場を目の前にしてやっと分ってくれた。
僕も思わず「Yes, W・A・T・E・R ! ! !」と叫んでいた。サリバン先生の気持ちが少し分ったような気がした。
すると今度は水で一杯になったペットボトルをかざして外人さんが何やら言い出した。僕が眉間にシワを寄せていると今度はペットボトルを下からライターであぶりだした。
あっ、この水は煮沸するのか?って尋ねているんだな。「Yes, Yes, Yes !」。

この後の会話は全てジェスチャーによるものである。
「あそこにあるテントはあんさんのテントやろか?」「Yes, Yes, Yes !」
「わいもテントを持って来たけれど張るのが難儀やので小屋に泊まりたいのや。そうしてもええやろか?」「OK, OK, OK !」(なぜか?3回繰り返してしまう)
外人さんを手招きして避難小屋まで連れて行った。
小屋の扉を開けるとそこには”アニマル浜口”系の男性が二人、シュラフに丸まっていた。
この外人さんにはキツイ夜になるかもしれんな!と思った。
(この夜はテント1張り、小屋3人だった)

夕方、テントの外が赤くなったので外に出てみると雲の下から夕焼けが覗いている。明日こそは晴れてくれよ!赤く染まった富良野の街はどこか寂しく見えた。


夕焼けの下には富良野の街が見えた。

十勝岳 編 へ続く

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