魚沼駒ケ岳(越後駒ケ岳)

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:車)

◆7月18,19日
品川(23:37) +++ 越後湯沢(5:26/6:42) +++ 小出(7:23/7:25) === 枝折峠(?/?) --- 駒ケ岳(13:30/14:00) --- 中ノ岳小屋(17:50)(小屋泊)

◆7月20日
中ノ岳小屋(5:30) --- 兎岳(?/?) --- 丹後山(9:30/10:00) --- 鉄砲平(?/?) --- 十字峡(12:30/?) *** 六日町(14:30/14:39) +++ 越後湯沢(15:00/15:35) +++ 上野(?)

山日記

朝一番の新幹線に乗るために朝3時に起きる。装備をザックに詰め込んで最後にカメラにフィルムを入れた。「あれぇ?」シャッターがおりない。10年間使ったカメラだがとうとう壊れてしまったようだ。僕の乱雑な扱いにも良く絶えたカメラだった。三脚に取り付けたカメラを強風に倒してしまったことが何度もあり、そのせいでカメラのボディーはボコボコに変形していた。もちろん愛着はあるのだが仕方なく新品を購入することにした。さっそくその日のうちに駅前のカメラ屋に買いに行った。カメラが壊れたことで出発予定が大幅に狂ってしまった。時刻表を調べると夜行電車があったのでそれで越後湯沢まで行くことにした。

朝食は越後湯沢で立ち食いソバでも食べようと思っていたが駅の店は全て閉まっていた。おまけに売店も閉まっていたので朝食は抜きになってしまった。
越後湯沢から始発で小出に到着。電車が到着してからバスの発車時間まで2分しかなく慌てて電車を降りる。しかし小出駅は小さな駅でホームから改札は近く、おまけに改札の前に既にバスは止まっていた。なにも慌てることは無かった。
乗客はほとんどが登山者で15人程だ。バスは山道をどんどん登って行く。車窓から眺める景色はいつのまにか空の占める割合が大きくなり、木々の間から見える麓の町も随分小さくなった。
空は青く快晴である。もし登山日和テストなるものがあれば間違いなくこの空は合格点だ。こうなると頭の中に「早く登りたい!」の文字が噴水のように次から次へとあふれ出てくる。せっかちな僕の気持ちはもう山頂へ飛んでいる。次のカーブを曲がれば登山口の峠が見えるんじゃないかとバスの前方に視線は釘付けだ。
ところが峠が近づくにつれて路肩駐車の車が多くなり、バスがその間を進むのが難しいのか段々ノロノロ運転になってきた。それにつれてイライラ虫が頭の中を這いずり回る。路肩に車が止まっているということはこの地点から峠はそう遠くはないはずだ。


小倉山付近から見た駒ケ岳 この時は余裕の表情とガッツポーズ
バスは徐行したり止まったりを繰り返し、目の前の峠に中々たどり着けないことにモーッ!発狂寸前だ。
そのうち完全にバスは止まってしまった。「申し訳ありません!男性の方、バスを降りて路肩の車を移動させるのを手伝って下さい」と運転手のアナウンスが車中に響いた。全く何ってこったぁ!!!
峠の登山口まであと数十メートルの地点だった。バスから僕を含めて男性8人が降りた。皆怒りに目が三角になっていた。運転手の指示に従って車の後部を持ち上げて少しずらしていく。朝飯を食べていないので力が入らない。結局4台の車を動かした。
登山口を直ぐ目の前にして大切な体力をくだらないことに消費してしまって腹が立った。でも「こんな車は崖から落としてしまえ!」とプリプリと怒っている男性を見ていたら自分の怒りもイライラもいつのまにか冷めてしまった。

やっと到着した登山口で行動食に持ってきたビスケットをすきっ腹に入れる。バスの到着が予定よりも遅れ、おまけにこの抜けるような青空である。腹もすいてはいるが山頂への誘惑には勝てない。湧き起こる焦燥感にあわただしく出発する。
だらだらとした登りを4時間で百草の池に到着。地図には「池が復元しつつあるので中に入らない事!」と書いてあるので登山道から覗いて見るだけにする。
少し休んで登り始めるが30分程でとうとう息があがってしまった。バテバテの見本のような?バテ方である。飯もろくに食べていないのでどうやらシャリバテのようだ。
駒の小屋につくと小屋の前にドッカと座り込んでしまった。「だいじょうぶか?」と声をかけられた。振り向くとインド人のような小屋番さんだった。「だいぶ疲れているようだが今日はどこに泊まるんだ?」「中の岳避難小屋に泊まる予定です」「今から中の岳まで行くのは相当厳しいよ。ここから中の岳までは地図では4時間だけどここまでの登りに体力をかなり消耗しているから少なくとも5時間はかかる。枝折峠から一気に中の岳まで行くなら遅くてもここを12時に出るようにしなくてはならない」「まあー、すぐそこに冷たい水が流れているから飲んで一息ついたら!」
小屋から少し降りると水が流れていた。すくって口に含むと冷たくて美味い。


百草の池から見た駒ケ岳 日差しが暑い!
小屋番さんの助言どおり今日はここに泊まろうか、それともがんばって予定通り中の岳小屋まで行くか?悩んだが答えが出ない。とりあえず頂上まで行ってみることにした。
山頂に立つと西側はガスっていて何も見えない。東側は晴れて展望がすばらしいかったので十分に景色を楽しむことが出来た。景色と地図を見比べながら「あれが荒沢岳でこっちが平ヶ岳か!その頂上に立てるのは何時になるか分からないけどみんな待っていてくれ!」
いよいよ行くかどうか決めなければならない。休みは明日1日しか残っていない。今日ここで泊まるということは明日は枝折峠に下山する時間しかない。せっかくここまで来たのだからがんばって中の岳まで行くことにした。

分岐点まで行ってみると中の岳までの稜線が目の前に現れた。さっきまでの意欲や元気は空気の抜けた風船みたいにシュルシュルとしぼんでいった。予想以上に険しすぎるのだ。地図を見ると登山道を横切る等高線の数は少ない。ところが目の前の稜線は竜の背中みたいに上下を繰り返している。僕の中には痩せっぽちの元気しか無い。「あぁ!やっぱり引き返して駒の小屋に泊まろうか」という思いが再び心を過ぎる。心の内部にあるいろいろな感情や意見は悪魔にもてあそばれているかのように結論が出ない。
歩いて来た道を振り返ってみる。その時、花畑の中に座っている二人の女性の姿が目に移った。これからまた戦場へ駆り立てられる自分と比べてこの喉かな光景はどうだろう。夕方まで景色を見ながらのんびりするのも悪くない。「山は逃げはしない。中の岳は次に来た時に再挑戦すれば良い!」そう思い直して道を引き返した瞬間のことだ。女性の一人が飲んでいたジュースのペットボトルを下方の草原に向かって投げ落とした。今朝の路肩駐車といい、この投げ捨てといい、マナー違反のフトドキ者が多すぎる。
この行為を目のあたりにして頭に血が上った。「僕はこいつらクズ登山者とは違う。こんなところでのんびりするほど落ちぶれちゃいない!こうなったら行ってやる。中の岳まで行ってやる。絶対行ってやる!」再び、中の岳に向けて歩き出した。

しかし所詮はカラ元気、30分も歩くと息が段々あがって足が前に出なくなってしまった。駒ケ岳頂上で休憩したのにあまり体力は回復していない。一時間ほど歩いたところで完全にダウンした。疲れが足に来てヘロヘロと座り込んでしまった。シャリバテは足に来るのだろうか?休んでも回復しないのだろうか?振り返るとやっぱりあまり進んでいない。「まだまだゴールは遠いなぁー」と思っていると、かなり後ろを歩いている登山者を見つけた。自分の後ろに登山者を見た安心感で少し楽になった。少し休んで再び歩き始める。後ろを振り向いて驚いた。後ろを歩いていた登山者がさっき見た時に比べてずいぶん近づいているのだ。少し歩いては気になって振り向くとその度にどんどん近づいて来る。すごい速さだ。
10分程してとうとう後ろに人の息遣いを感じた。


ここまで来ればもう一息で駒ケ岳だ!
振り返ってみると超人的な速さの主は加藤文太郎ではなくインド人ではなく駒の小屋の小屋番さんだった。時間を考えると小屋では夕食の時間の筈である。こんな時間に小屋番さんがハイキングを楽しんでいるはずがない。
「どうしたんですか???」、「この先の岩場で男性が捻挫して動けなくなった」「ヘリが救助に来るので下からサポートする」と言い残すとまたすごい速さで行ってしまった。
しばらくするとバリバリとヘリコプターの音が聞こえてきた。
見晴らしの良いピークに立ってみるとヘリコプターに人が釣り上げられているのが見えた。こんな痩せ尾根ではヘリコプターが降りる場所も無いのでやはり下で遭難者を確保しなければならない。なんか僕まで緊張した。
しばらくするとヘリコプターは遠ざかり、小屋番さんが戻って来た。「あなたも十分気を付けて下さいね!あと2時間くらいだからガンバッテ!」そう言い残しとまたすごい速さで戻って行った。小屋番さん偉い!カッコイー!

僕も気を取り直して出発した。ところが1時間もすると疲労がピークに達し情けないことに足が痙攣してきた。もう完全にやばい。しかし逆に開き直って「暗くなるまでもう少し時間がある。もっと歩くスピードを遅くして確実に一歩一歩行こう」と思った。こうなってくると景色を見ている余裕は無い。とにかく左右の足を交互に出すことに専念するのだ。
いくつかのピークを過ぎて小屋まであと20分位だと思われる位置まで来た時、休憩している4人のパーティーに会った。年齢60歳位の男女四人がのんびりと話をしている。日も暮れようとしているし小屋までもう少しなのでガンバッて歩いた方が良いと思ったが他人のことをとやかく言う余裕は今の自分には無い。挨拶を交わしそのまま歩き続けた。

人の話し声が聞こえ、やがて木々の間に小屋が見えた時には本当に嬉しかった。もうこれ以上歩かないですむのだ。小屋になだれ込んで土間にザックを降ろす。急に肩が軽くなり背筋が伸びたような感じがする。あとは早く座り、ここまでガンバッてくれた足を休ませたい。
小屋の中を見回す。もう一度見回す。なんと空いている場所が無い。小屋いっぱいにシュラフやマットが敷き詰めてあり、少しの隙間にはザックが陣取っている。


駒ケ岳山頂から歩いて来た登山道を見る
やっぱり到着するのが遅すぎたのだ。この疲れた体を横にする場所はもう無いのである。へなへなガックンと体は崩れ落ちそうである。
その時天の声を聞いたのだ。雷雲立ち込める空から一筋の光が大地を照らすように暖かく力強い声だ。「一人到着したけど場所が空いていないので、皆さん少しづつつめましょう」。雲の隙間から差し込む光がだんだん広がっていくように床の空きがだんだんと広がっていった。新潟の人は良い人だ。今朝の違法駐車の件も大目に見よう。だけどペットボトルの投げ捨てはだめだけんね!ちょうどシュラフ1体分空けてもらったのでそこに崩れ込むように体を横たえた。
隣の男性と話してみると昨日は八海山の千本桧小屋に泊まり中の岳まで縦走してきたそうだ。地図を見ると登山道は点線の難路となっている。おまけに危険マークも付いているので僕の実力ではまだまだ歩けそうにない。
夕食にカレーライスを食べていたら小屋に到着直前に会った男女4人のパーティーが到着した。空いている場所は無い。どうするのだろうか見ていたら敷いてあるマットを勝手にどけて円座になって弁当を食べ始めた。この間2分の早業である。4人のザックは小さくて服装も新しい。もしかしたら初心者かもしれないがそれにしてもやることは大胆である。次の展開を期待しているとそこに原住民が帰ってきた。

綺麗な花にはいつも癒されっぱなしなのだ!
自分たちの陣地を占領された事に呆気に取られ言葉を失っているようだ。交渉の内容は聞き取れなくて残念だったがこの4人は弁当を持ったまま2階へと移住していった。

この小屋は入り口の扉が外と内の二重になっており二つの扉の間に便所がある。そろそろ寝るか!と便所に行ったら便所の前の土間に男性が寝ていた。こんな所で寝るなんて可哀相であるが、あいにく小屋は満員御礼なので僕にはどうしてやることも出来ない。
しかし土間で眠れるこの男性の根性と言うか精神力はたいした物である。僕なんか山小屋では全然寝れなくて夜の間、羊の数をずっと数えていることも珍しくない。

翌朝はまずまずの天気だったが出発してすぐに曇り出した。兎岳山頂に着いてもガスっていて展望は無い。おまけにとうとう雨も降り出した。合羽を着て丹後山に向かう。登山道は登り降りが少なく、晴れていれば山上散策を楽しめたのに残念だ。つまらない雨の中の歩行となり丹後山避難小屋に到着。
小屋に飛び込み合羽のフードを取る。ホッと一息つける瞬間だ。小屋の中では単独行の男性が食事中だった。話をしてみると昨夜、便所の前で寝ていた図太い神経の持ち主だった。十字峡から日向山を通って中の岳まで登ってきたが久々の重装備で疲れてしまい、到着予定時間を大幅に遅れてしまったそうだ。小屋に到着してみるといっぱいで仕方なく便所の前で寝たそうである。なんと朝まで熟睡したそうで神経質で夜中に何度も起きてしまった僕とはえらい違いである。
展望は望めないのでここで昼食を食べて早々下山することにした。
降っていると空が段々晴れてきた。晴れて来たというより雲がかかっているのは山頂だけであった。

かなりバテています まだまだ中ノ岳は遠いぞ!
一転して猛暑が僕を襲う。汗だくだくになってで十字峡登山センターに着いた。ここから野中のバス停まで一時間の歩きである。舗装された道路を歩くのは暑くてつらそうだ。
休憩後歩き出そうとした時、1人の女性が日向山からの登山道を降りてきた。普段は歩く距離だがこの時はバテバテのヘロヘロに疲れていたのでこの女性に六日町までのタクシー相乗りをもちかけた。すると返って来たのは「連れが今駐車場に車を取りに行っています。良かったら乗せていきましょうか?」というありがたいお言葉だった。
今回の山日記を読み返してみると山そのものの記述がとても少ない。天気が悪く山の印象が薄かったせいもあるがそれ以上にいろいろな雑事が多かった。話はまだ終わらない。。。けどやっぱり山の話ではないのが寂しい。

十分ほど雑談していると車がやってきた。男性一人に女性二人のパーティーだった。車に乗ろうとすると「途中で温泉に寄りますが良いですか?」と言われた。僕は下山した後に温泉に入らない。何故かって言うと。。。僕はビールがとにかく好きである。そのビールが一番旨いのはやはり風呂上がりの一杯である。下山→途中温泉→ビールというのも悪くはないがそこから家に着くまでの時間がだれてしまう。
好きなのはやっぱり家に着いて風呂に入り、山登りでたっぷりとかいた全身の汗を全部流し、ここで冷えたビールの登場するのが良い。冷たいビールを体にコンコンと染み込ませていると山旅の記憶がじんわりとよみがえって来る。それからチャブ台の上には焼き肉、寿司、刺し身、奴なんかが並んでいるととても幸せな気分なのだ。
そうなんだ!この一瞬に快楽のすべてを爆発させるのだ。この時点で山登りが完結して完全燃焼したといえるのだ。だから帰り途中で温泉に入ったり、車中でビールなんか絶対に飲まない。一度なんか喉がカラカラに乾いていたのに「この方がかえってビールが旨いのだ」と水分補給をトコトン我慢していたら帰りの電車の中で熱射病になってしまった。
こんなことしているバカは僕だけだと思っていたら先日、僕の好きな椎名誠さんも同じ事を何かの本に書いていたので「僕とおんなじだぁーっ!」と嬉しくなった。

話を戻そう。車はドライブイン兼温泉といった感じの一軒の前で泊まった。本当は温泉には入りたくないので1人車で待っていたいのだがそうすると相手も気をつかってしまう。仕方なく温泉だけは入ることにした。
脱衣場で服を脱いでいたら困ったことになった。僕はタオルを持っていないのだった。山登りを始めた頃はタオルを使っていたけど今はバンダナを使っている。水場で顔を洗ったりしてタオルが一度濡れるとなかなか乾きにくい。その点バンダナは翌朝には乾いている。
バンダナで股間を隠して鏡を見てみる。バンダナが手の中にすっぽりと隠れてしまい、手だけで股間を隠しているように見える。これはなんかすごく情けなく、それにヌード写真のポーズみたいでなにか妙に艶めかしく見える。ブヨブヨ気味の白い腹に黒く日焼けした腕の対比がこっけいであり情けなさを増加させている。この二日間山と格闘してきた戦士にはとても見えない。
ここは男らしく隠さずに堂々と浴室に入ることにした。「どうだ!俺の暴れん棒将軍を見ろ!」とあまりに勢い良く歩いたのでオチンチンがペタペタとなって恥ずかしかった。

風呂から上がってロビーで涼んでいるとビールを飲もうと言うことになった。しかしここでビールを飲んでは完全に帰宅後の楽しみが失われる。それでつい「僕はお酒は飲めないんです!!!」と嘘をついてしまった。男性は運転するからとジュースを飲んでいた。女性二人が缶ビールをゴクゴクと風呂上がりの喉に流し込んでいた。ビール缶一面に結露した水滴が何とも憎たらしい。
そしたら今度は「アイスが食べたいね!」と言い出した。まったく人に気も知らない女だ。「もう勘弁してくれ!これ以上誘惑しないでくれ!」と心の中で叫んだ。今度は「僕は甘い物は嫌いです!」とまた嘘をついてしまった。しかし僕が遠慮していると勘違いしてこの女性が僕の分もしっかり買って来てしまった。さあ、こうなるともう断れない。「風呂上がりのアイスクリームはやっぱり旨いですね!」と愛想笑いの僕だった。甘い物を食べたので喉の渇きが最高潮になり我慢しきれずとうとう水をがぶ飲みしてしまった。これで帰宅後に一発完全燃焼は夢と消えた。。。

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