西穂高岳、焼岳

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩)

◆10月18日
立川(0:19) +++ 松本(4:10/4:22) +++ 新島々(4:45/4:50) === 上高地(6:10/6:20) --- 登山口(6:30) --- 西穂山荘(9:10) --- 独標(10:20/10:40) --- 西穂高岳(11:40/12:00) --- 西穂山荘(14:00)(小屋泊)

◆10月19日
西穂山荘(6:20) --- 丸山(6:40/6:50) --- 焼岳小屋(8:55) --- 焼岳(10:00/10:30) --- 上高地(12:30/13:40) === 新島々(15:00/15:20) +++ 松本(15:53/16:06) +++ 八王子(18:01)

山日記

西穂高岳へは奥穂高岳から縦走してやろうと思っていたのだが相変わらず岩場が苦手ではどうしようもない。
縦走は諦めて上高地から登ることにした。ただそれではあまりにも情けないのでせめて隣の焼岳とつなげて登るにした。
焼岳は噴火で梓川を堰き止めて大正池を作った山だ。大正池の湖中に枯れた木がポツンと立っている風景を見る度に「罪な奴だな」というダーティーな印象の山だ。

上高地でバスを降り、西穂高岳へ向かう。早朝だというのに散策路には既に数人の観光客が歩いている。空は快晴、こんな空だと歩くの気持ちが良い。気温は低いが登るのにはむしろこれくらいが丁度良い。
樹林の中の道を2時間ほど登った所で、ふと右の方を見るとカモシカがじっとしてこちらを睨んでいた。あまりにも動かずにジッとこっちを見ているので薄気味悪くなって「コラーッ!」と驚かせるとその場を早足で通り過ぎた。


西穂山荘から西穂高岳に向かい歩き出した時にはこんなにいい天気だった。
登り始めて3時間で西穂高山荘に到着。小屋に入ろうとしたら小屋の前にいた外人が何かわめきながら僕にカメラを差し出してきた。最初、「これ僕にくれるのか?ずい分気前の良い外人だなぁ」と思ったが、どうやらシャッターを押してくれと言っているようだ。
ファインダーをのぞいてシャッターを押そうとした。ところが困ったことが起きた。何て掛け声をかけて良いか分からない。日本語だと「ハイ、チーズ(これは古いか?)」「いきますよー」などと言うが英語では何て言ったら良いのだろう?。考えても分かるわけ無いので「いきますよー」と日本語で言ったら向こうも「OK」と返事したので北アルプス国際交流も無事に事なきを得た。
小屋から西穂高岳に向かうと周りの景色は一変して樹林から這松に変わり展望が良くなる。
独標の向こうに西穂高岳の頭が見えた。「待ってろよ!今行くぞ!」と気合が入る。西穂高岳への登山道は展望は良いが風も当たり少し寒い。しかし目の前にその姿を見せつけられているので元気十分だ。
ところが登るにつれて段々と雲が湧き始め、先ほどの晴天もどこかに行ってしまった。独標に着いて西穂高岳を見ると雲がかかってしまっていて「そりゃ、ないだろう?」と裏切られた気持ちになる。元気は無くなってしまい強風がもろにぶち当たる稜線の登山道を歩くのは辛い。
西穂高岳山頂から見る奥穂高岳は完全に雲の中で薄っすらとしか見えなかった。「せっかくここまで登ってきたのにさっきまでの晴天はどうなったんだ!」雲の切れ間に奥穂高岳までの登山道が見える。予想していたようにやっぱり険しい。「こりゃ。駄目だ!」やっぱり僕の実力ではこのルートは無理だと思う。
気が付くと「ダメだ!」を繰り返していた。いつの間にか「ダメだ!」がタケダ製薬の古いコマーシャル「タケダ、タケダ、タケダー」のメロディーになっていたのには我ながら呆れた。だがこれはロート製薬のコマーシャルだったかもしれない?
こんな馬鹿なことを言っているそばから強風に体温がドンドン奪われる。歯がガチガチと音を立てる。やはりこの季節は太陽が隠れ、風が強いと猛烈に寒い。
どんよりとした雲に覆われた奥穂高岳を見ているとなんだか暗く深い谷間に引き込まれそうに思えて怖くなる。山頂には僕一人だったせいもあり不安になり直ぐに降りることにした。

独標から見た西穂高岳 この後、もっと天気は悪くなっていく。
独標を過ぎて小屋までもう少しの所まで降りたところで後ろを振り向くと。。。先ほどの雲は無く、そこには快晴の西穂高岳の姿があった。「チクショウー!さっきまでの雲はどこに行った!あの悪天候はどうなったんだ!」なんとも悔しい。「あと1時間遅く登っていたら。。。そうだあの外人が悪い。あいつが僕に英語で話し掛けてくるからこういうことになるんだ!」と八つ当たり状態。もう一度登ろうかとも思ったが、足に根性は残っていない。
小屋に入ると予想以上に人が多かった。僕は歩くのが遅いので普通は多くの登山者に追い越される。今日、上高地からここまで来る間に降りてくる人は居ても登る人には会わなかった。登山者が少ないのかなと思って小屋の人に尋ねると「およそ9割の登山者は新穂高温泉からロープウェイで登って来る」ということで小屋はほぼ満員状態。

展望台から見た穂高岳 どこかヨーロッパアルプスを思わせる。。。と言いたいがヨーロッパには行ったことが無いのだ。
案内された部屋に入ってみると6畳に4人で余裕で寝ることが出来そうだ。
夕食までの時間は同室になった80歳くらいの男性と山の話をする。その男性が「今年何回山に登りました?」と聞いてくるのでちょっと自慢してやろうと「まあ20回くらいかな!」と答えた。そうしたら男性は鼻の穴を膨らませて「俺は50回だ!」と答えた。へこまされたのは僕の方だった。とんでもなく元気な爺さんである。(ほとんど毎週、山に行っているそうだ。)
山小屋に入って嬉しかったこと。それは部屋に「混んでいる時の並び方」みたいな図が貼ってあり、図には交互に頭と足を逆にして寝ている絵が書いてあるのを見つけたこと。これはまさしく北アルプスの山小屋の象徴だ。山小屋の全てがここに凝縮されている。(後日談:同僚にこの”混んでいる山小屋では交互に頭と足を逆にして寝る”という話をしても「そんなことがあるはずが無い」と誰も信じない。この図の写真を証拠として撮らなかったことが今になって悔やまれるのだ)
山小屋に入って悲しかったこと。各部屋では飲食禁止。食堂も酒禁止。(多分、客を数組に分けて食事させるため、酒を飲んで居座られると困るからだろう)それで酒を飲むには階下の談話室でということになるのだが一人ではなんとなく落ちつかない。
布団に寝転がって酒を飲みながら今日のコースタイムをまとめたり、地図を見ながら明日のコースを想像したりという楽しい時間は無かった。

展望台から見た焼岳 熊笹の緑と荒涼たる山容が対象的。
翌朝、朝食を食べ終わるとパッキングを済ませておいたザックを担いで小屋を出た。
昨日の天気の回復が悔しかったのでもう一度丸山まで登ってみる。朝日をあびた徐々に顔を出していく笠ヶ岳が綺麗だった。
焼岳への道は樹林の中をひたすら歩く。霜柱をサクサクと鳴らし秋の朝を味わいながらの散策だ。時々木々の間に朝日に白く光る焼岳が見え隠れする。「早くあそこまでたどり着きたい」と思うのだが、ペースを抑えて歩かないと持病の膝痛がいつ痛み出すか分からない。
木々の間に見える焼岳はドンドンと大きくなり、その山容も険しさを増していく。
展望台と呼ばれる場所に立つと、なんとまぁ!良い景色だ。周囲の緑の柔らかさと荒涼とした焼岳が実に対照的な風景を創造している。

焼岳頂上から南側展望 後ろに見えるのは乗鞍岳
もう気分は100%焼岳へ向いてしまっていつも鈍い動きしかしない足はこの時ばかりは2割増の速度で歩く。
登山道の直ぐ脇から白煙が立ち上り、硫黄の匂いがする。いよいよワイルドになってきた。ダーティー焼岳の感じがしてきた。「良いぞ、良いぞ!」と気分は盛り上がってきたが、頑張って歩きすぎたので頂上にはヘトヘトになって到着。
はっきり言って。。。「この景色は最高!この景色は見なきゃ損だ!」。
雪で薄化粧の笠ヶ岳、穂高岳、黄色く紅葉した上高地、霞沢岳の迫力ある岩壁など一望出来るのだ。さっきまでの疲れは吹き飛んで快晴の秋空に展開する北アルプスを堪能しまくった。
「堪能しまくった」とは少しいやらしい表現かもしれないが「しまくった」のでしょうが無い。

いつまでもこの景色を見ていたかったが下山しなければならない時間になった。
なんとももったいないことである。
上高地を目指す足は軽く、爽快な気分で緑の笹の中を歩いて行く。「あぁー!この気分のままで明日、会社に行けたら何て良いだろうか!」とふと思った。


焼岳頂上からの北側展望 頑張って4枚の写真をつなぎました。上の写真と同じ位置から撮影しているので上の写真と合わせると270度位のパノラマになります。
●山麓をゆくへ   ●ホームへ
inserted by FC2 system