余市岳

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:車)

◆ 2022年9月10日
余市駅 (8:25) === キロロリゾート (9:20/9:25) --- 登山口 (10:25/10:30)
--- 山頂駅分岐 (11:45) --- 鞍部 (11:55/12:05) --- 山頂 (12:55/13:35)
--- ケルン (13:45/13:50) --- 山頂駅分岐 (14:40/14:45) --- 登山口 (15:55)
--- キロロリゾート (16:45/17:02) === 余市駅 (18:02)
山日記

生酒の一升瓶1本、松竹梅一升瓶1本、それに焼酎の2Lペットボトルが空になって並んでいた。
歯磨きしながら窓から外を眺めると早朝ジョギングしてる人は外人さんばかりだ・・・倶知安はリゾート地なんだな。

IT社長は羊蹄山へ、東京の3人は沼巡りコースへそれぞれの出て行くと宿は急に静まり返った。
三日間お世話になった宿を出ると朝のひんやりとした空気に包まれた。

函館本線は運行本数が少ないので余市駅の待合室は乗客が居なくてガランとしてる。
少しでもザックを軽くしようと予備の服、充電器、文庫本など登山に必要ないものはコインロッカーに預けた。

余市岳へのアクセス方法をネットで調べてみると余市駅からバスに乗り常盤で下車しそこからキロロリゾートまで約4.5kmの車道歩き、更にキロロから登山口まで4kmの林道歩かなければならなかった。
しかもそのバスが余市駅→常盤 8:35、常盤→余市駅 17:10の1日1往復しかないのでかなりハードな山登りになってしまう。

他にアクセス方法は無いかと検索していると唯一の交通手段だったその常盤行のバスが今年の3月で廃線になったとの情報があり、駅から登山口まで歩くことやタクシー利用は考えられなかったので、この時点で余市岳登山は諦めようと思った。

ところが更に検索していると3月に廃線になった後は4月から赤井川村がそのバス運行を引き継ぐとの情報を見つけた。
おまけに赤井川村が運行すると運行区間:常盤→キロロリゾートまで延長、運行数:1日1往復→3往復に増便、運賃:\1110→\300と安くなっており良いこと尽くめなのだ。

以前よりアクセスが簡単になっているではないか、もうこれは行くしかない!


余市と言えばウイスキーのイメージしかない。個人的には北海道の自然を感じさせる駅であってほしかった。

バスは余市駅を出て40分、常盤で右折してキロロリゾートへ緩やかに登って行く。
車窓に流れる景色を眺めながら「この道をテクテク歩くことにならなくて良かった」としみじみ思う。

高級リゾートマンションみたいなキロロリゾートはシーズンオフで人気が無くゴーストタウンみたいで少し不気味だ。
ここで降りたのは札幌在住の男性と僕の二人だけだった。土曜日のそれもこんな晴天の日なのに乗客はわずか2人とは赤井川村の村バスもいつまで運行されるのか心配だ。

キロロリゾート右の川沿いに林道(ダート道)の車両進入禁止ゲートがあった。
以前はこのゲートが開いており車で登山口まで行けたらしいが今は4km歩かなければならない。もっともバス利用の人は車利用の人と公平になって満足かもしれないけど。

バスで一緒になった札幌の男性は長身でスポーツマンといった感じで「ティモンディ」の高岸を訪仏させた(しかも喋り方も似ている)。
そのティモンディ高岸と同時にゲートから歩き出したのにものの3分もしないうちに先を行く彼の姿は見えなくなってしまった。

ゲートからダート道を歩くと登山口に60分で着いた。
行き止まりになった林道の奥に見える余市岳は思ったよりも高く、あの頂まで地図のコースタイムで登れるのだろうか?と自分の体力と帰りのバス時間が心配になった。

登山口を探すとゲレンデの右側に「熊出没注意」の赤い警告板があり、その横に登山道があった。

沢沿いのドロドロ道は地図では「道不明瞭」となっているけど迷うような箇所は無く、一ヵ所だけ沢を渡る箇所もしっかりと赤テープがしっかりあるので迷うことは無かった。


林道は突然終わり、その先に鎮座する余市岳は登山者を途方に暮れさせる高さだった。

暫くは緩やかな登りだったが40分ほど歩いていると急な登りになった。ただそれも10分ほどで森を抜け笹の道に出ると緩やかになった。

前から下山して来る人、皆さん共通していることは熊鈴の音がうるさい程大きいことだ。
羊蹄山とアンヌプリに登った時はザックの底に付けた鈴があまり鳴らなかったので(それにザックを地面に置く度に傷だらけになった)今日はショルダーベルトに付け直した。

山で熊との遭遇を回避する手段として熊の糞を見つけたら(特に新しい)その場から引き返すことだと言われているが皆さん引き返しているのだろうか?この日も登山道で熊の黒い糞をいくつか目撃したけれど次々と下山してくる人を見かけるし誰も引き返していないように思える。


山頂駅の分岐を過ぎると余市岳がその姿を現した。それは良い山だと思った瞬間。

ゴンドラ山頂駅舎への分岐を過ぎると目の前に緑の笹に覆われた余市岳の姿が見えた。
下から見た時には山頂までの高度差を感じて気が重くなったけど意外とあっさりと稜線まで登りことが出来た。
地図では「見晴台」の表記があるのでどこかに余市岳の全貌が見える場所があるのだと期待したけどこにも眺望が良い開けた場所は無いまま鞍部へと下って行く。

一旦50mほど下ると再び山頂に向け250mほどの急な登りになる。

「どっちから風が吹いているのだろう」振り向くと鈍く光る日差しの中に風の行方を確かめたくなるような緑の海原が広がっていた。
山頂駅までの一本の道は北の大地の遥か遠くへと誘う道しるべみたいだ。


鞍部から登り返す急な道も新しい山のメッセージと出会う楽しい道。


振り返るとそこは北海道のスケールの大きさにただ戸惑うばかり。歩いてみたいけど時間が無くて諦める。

急だった勾配が緩やかになると登山道の左側にケルンのある見晴らしの良い場所があった。
山頂に着いた!と思ったらそこは山頂ではなくて更に奥へと向かう道が続いている。
ハイ松に覆われた平坦な道を歩いていくと突然視界が開け「余市岳」の標柱と羊蹄山が並んで現れた。

余市岳山頂は360度の展望でしびれるような山の羅列がグルリと空を漂っていた。
昨日登ったばかりの羊蹄山やニセコアンヌプリが思ったより近く、あの頂に居たんだと思うと今はもうそれも懐かしい。


ケルンから山頂まではハイ松に覆われた平らな台地の中の散策路。


ファーストインプレッション・・・余市岳山頂から羊蹄山が大きい。その一つが全ての答え。


昨日登ったニセコアンヌプリにまずは挨拶!眩しい山魂は意外と近かった。

20分も前に山頂に着いたと言うティモンディ高岸はとても親切で見える山について色々と話してくれた。
東に見える定山渓天狗岳の山頂付近は岩場になっていて登山道が直角に曲がっている箇所を直進してしまい滑落や道迷いの事故が多いこと。
バス利用で樽前山に登る場合はビジターセンターで自転車をレンタルすれば5合目まで行けるので時間の短縮になること、など。
一番印象的だったのは空沼岳から札幌岳へ縦走した時、登山道の途中から踏み跡が無く、背丈以上の藪で見通しも利かないため道に迷い、携帯でヘリの救助要請をした話だった。
今回、もし余市岳のアクセスが悪くて登れなかった場合は予定を変更してら空沼岳から札幌岳へ縦走しようと思っていたのでその話を聞いてゾッとしてしまった。
アーっ、行かなくて良かったぁー!
それにしても今朝、キロロリゾートでゲートの場所をスマホで確認していた彼が「YAMAPを使えば道迷いしませんよ」と教えてくれたけど・・・


左が無意根山、右が中岳。無意根山は西側が岩壁になっているようで興味深々。


右から尻別岳、有珠山、その左に薄っすらと見えているのが駒ケ岳。


左に神威岳、右の定山渓天狗岳は札幌では「魔の山」と呼ばれているって本当?

「余市岳って初めて来た山ですけど眺望が良いですね!」僕は視線を遠くに移した。
「ザっ・札幌ぉーっ!」 ティモンディ高岸がいきなり絶叫した。
何で急にテンションが上がるんだ?そもそも余市岳って札幌ではなく余市の山じゃないの?(後で調べると余市岳は余市と札幌にまたがる山だった)。
何でも余市岳は札幌で一番標高が高い山らしいのだが「余市岳=THE・札幌」と言う愛称は札幌では一般的なのだろうか?

その後も僕が「余市岳」という言葉を口にするする度にスイッチが入って「ザっ・札幌ぉーっ!」と突然叫ぶので可笑しくてたまらない。


何だか夜の街みたいに写ってしまった余市の街もただの通りすがりの街になってしまった。


石狩湾と札幌の街並み。初めて訪れた札幌もただ通り過ぎただけになってしまった。


暑寒別岳はそのアクセスの悪さから登山を断念。

もう僕の後には誰も山頂に登って来なかったので帰りのバスに間に合うギリギリの時間まで一人山頂でのんびりと眺望を楽しんだ。

山頂は広い台地になっており西の淵が山頂で東の淵がさっき通ったケルンがあった場所だ。
下山する時そのケルンがある場所へ寄ってみた。

ケルンからは東から南へかけての眺望が良く、山頂の向こうに見える羊蹄山が大きい。
「ブラタモリ」によると山頂部が平らになっている山というのは火山の特徴で「火口から流れ出た溶岩が窪地を埋めてしまい、その後に山頂部(火口)が浸食によって無くなり平らな山頂になった」ということらしい。そうすると余市岳も火山なのだろうか?

あと2週間もしたらこの山頂も紅葉した木々で覆われることになるのだろうと思いながら山頂を後にした。


山頂からケルンがある広場まで平坦な台地が広がっている。


山頂からケルンがある広場へ向かうと少し早い紅葉が鮮やかだった。


山頂の東側に位置するケルンは羊蹄山を見守るように佇む慰霊碑だった。

下山する視線の先には広い笹原の台地が広がり、その真ん中にポツンとゴンドラの山頂駅が見える。
あそこにはどんな景色が広がっているのだろう?もうこの山に来ることはないような気がするので頂上駅まで行ってみたかったけれどもうその時間は無かった(ゴンドラは動いていなかった)。

山頂を出るのは自分が一番最後だった。もう周りを歩いている人の姿はどこにもない。
登山道の両側はびっしりと密集した笹の壁にブロックされているのでもしここで熊と遭遇したら前か後ろかにしか逃げ場がない。気が付いたら熊鈴を手で激しく振っていた。


山頂駅分岐からドンドン降って行く。平坦な山頂の朝里岳にある山頂駅まで行ってみたかった。

帰りも村バスの乗客は二人だけみたいだ。

キロロリゾートでティモンディ高岸と北海道の山登りの話をしながら帰りのバスを待った。
「山里を歩いて登山口へ向かうのは嫌いではないんですよ」彼は何と斜里岳も暑寒別岳も駅から登山口まで歩いて登ったらしい。
この二つの山はアクセスの不便さから登山を諦めた山だったので彼の話は興味深く、そしてヤラレタ!と小さなジェラシー。

やって来た赤井川村の赤いバスをティモンディ高岸が嬉しそうにスマホでカシャカシャ撮りまくっていた。
ハイテンションのその姿に「ザっ・札幌ぉーっ!」が出るのではと期待していたがさすがにここでは出なかった。

赤井川村、ガンバレーっ!いつまでも村バス続けてくれーっ!

彼の真っ直ぐに伸びた影がオレンジ色の光の中で揺れていた。


キロロリゾートが近くに見えると今日のゴールはもうすぐだ。


エピローグ

余市岳を降りてその日は札幌のゲストハウスに泊まった。

翌日は千歳から支笏湖へバスで移動して樽前山へ登ろうと思っていたけど登った後に羽田まで向かう飛行機が取れず泣く泣く樽前山登山は断念した。

こうして短い北海道の山旅は終わった。

今回の北海道遠征は観光地へ行かず郷土料理も食べず、ニセコ、余市、小樽、札幌、千歳、どの街も駅と登山口を往復しただけの何も無くて、そして素晴らしい山登りだった。

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