新穂高温泉ラプソディー

日本人にとって温泉は心も体も温まる憩いの場所だ。汗だくになって山を降りてきた後の一風呂はなんともたまらない。サッパリと汗を流し、疲れを癒し、爽快な気分にさせてくれる。
これはそんな温泉でのしんみりした話である。

新穂高温泉には誰でも入れる無料の温泉がバスターミナルにある。
笠ヶ岳や鏡平、または槍ヶ岳や西穂高岳から降りて来た登山者にとってはそれはそれは便利この上ない、ありがたく最高の温泉なのだ。

笠ヶ岳から降りて来た僕は松本行バスの発車までに時間があることを確認するとバスターミナルにある温泉に向った。
入口を入ると右に下駄箱があり、その下には他の登山者のザックが数個、無造作に置いてある。僕のザックは大きいのでそこへは置けず脱衣所に入るとドカッと窓際に降ろした。
脱衣所の窓は開放されていて直ぐそばを流れる蒲田川のせせらぎが聞こえてくる。
二日間着たきりだったTシャツは汗と泥でグシャグシャだ。空いているロッカーを見つけ服を脱ぐと川面を渡って来た風が素肌に涼しく爽やかだ。

浴室へのドアを明けると先客が3人いた。
頭からお湯をザブンとかぶり、直ぐにでも湯に浸かりたいのだけれど山から降りてきたばかりの体は汗や泥で汚れているのでそれは出来ない。
洗い場に蛇口は4つ有り、一人が使っていたので空いている所に座った。
正面の鏡の中には汗にまみれた男の顔が映っている。首から下だけが妙に白いのには笑ってしまう。
蛇口上の段には石鹸やシャンプーが並べてあるが登山者が持って来たにしては大きい。
「すみません、これどなたのですか?」隣で体を洗っている人に尋ねた。
「ここの浴場に元から有りました。使って良いみたいですよ!」となんとも嬉しい返事が返って来た。この二日間の根性入り汚れを落とすには石鹸が必要なのだが持って来ていなかったのでこれは大いに助かった。
それにしてもなんて気前が良い温泉だろう。無料でしかも石鹸、シャンプーまで用意してある。
これは表彰ものだ!(注:写真は新穂高温泉ではありません)

「山登りですか・・・どこに登られました?」体を洗っていると隣の男性が話し掛けてきた。
この男性も登山者らしく、体の汚れや汗をゴシゴシと洗いながら話していると気持ち良く、山の話も自然と弾むのだった。
「あなたは痩せてて良いですね。私なんかこの体だから山に登るのも大変ですよ!」と男性が言った。そう言われたら少し太目かなという感じもする。
「一日中歩いていたらもーっ股の内側がスレて痛いんですよね!」と言うと腰掛に座ったまま両膝をパカッと開き、「ここ!ここ見て下さい!」と言いながら僕の方に向き直った。
内股のスレた箇所を僕に見せたいのだろうが・・・それより・・・なにより・・・オチンチンが丸見えなのは正直困ってしまう。
直視出来ずに「はぁー、そうですね!」なんて言葉を濁していると「ここ!ここですよ!」と膝を開いたまま僕を方ににじり寄って来た。
「なんだ!なんなんだ!このオッサンは?」僕は人のオチンチン何か見たくない!せっかく山の話をして荘厳な山の景色を思い出し、体の汚れを落として爽やかな気分になっているのに何で、な・ん・で・・・ここでオッサンのオチンチンを見なくてはいけないのだ!
しかしオッサンは「ここです、ここ見てください!」腰掛をコトコトいわせながら尚もジリジリと僕に迫って来た。
こうなるとオッサンも見るまでは後に引かないぞ!といった雰囲気なので仕方なくオッサンの股間を覗き込んだ。
一瞬で目が腐った。まったく嫌なものを見てしまった。あー北アルプスの山々が消えて行く。
「でもまぁーこれで終わりだろ!終わりだ!終わりなはずだ!トットと体を洗ってお湯に浸かろう!」と思った。
しかしこれで終わりではなかった。「あなたは痩せているからこんなことにはならないでしょう!」と言いながらオッサンが僕の股間を覗き込んできた。
「うわーっ!ぬわんなんだ!このオッサン!」僕の暴れん棒将軍もまぁー人並なので見られて恥ずかしくないのだがこんなに近くでジィーと見られる事にはさすがに慣れていない。
この”マジマジ観賞”にはさすがに恥ずかしく慌てて泡で股間を隠すとオッサンはやっと諦めた様子で腰掛をコトコトいわせながら戻っていった。

あーっ、こんな所を他の人が見たらどう思うだろう?オッサン同士でオチンチンを見せ合っこして馬鹿じゃないの!と思われるに違いない。
そういえば学生らしき男性が二人、湯に入っていたが今のシーンを見られたんじゃないか!と思って振り向いたがいつの間にか居なくなっていたのでホッした。

湯に浸かっていると先ほどの”これ見ろ!オッサン”が入ってきた。次に”ニギニギ攻撃”して来るのではないかとすこし構えたが湯に入るとすぐに出て行ってしまった。その後姿を見送ると体中の筋がビロビロにのびてひまひまひたー。

しかしあのオッサンは何だったんだろうか!山に登っている奴っていうのは確かに変わっているのが多いが・・・まーただの話し好きだったんだろうか?
誰も居なくなった湯船に浸かりながらお湯の中でユラユラと揺れるオチンチンを見ているとなんだかすごく疲労感を覚えるのだった。

以上・・・温泉でしんなりした話でした。

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