山で幽霊と会う方法 (1/2)

「山の中、一人でテント張ってて怖くないですか?」
たまに質問されることがあるのですが返答に困ってしまいます。この「怖い」と言うのは野生動物や不審な登山者のこともあるのでしょうが質問の対象はお化けとか幽霊とかでしょう。
私は幽霊の類を信じているわけではありませんが、かといってまったく否定するわけではありません。怪奇現象については世間一般のゆわゆる普通の感覚だと思います。

誰も居ない山中で一人で幕営する時にはさすがに良い気持ちはしない場所が有ります。幕営場所が山頂や草原など広々とした場所では気持ちも大きくなるのでしょうか?闇が怖いということは無く、むしろテントの外に出てぼんやりと夜空を眺めたりもするのは大好きなくらいです。
ですが森の中など視界がなく、うっそうとした場所で幕営する時はどこか薄気味悪い物を感じているのかもしれません、必要以上にテントの外には出なくなってしまいます。
ですから「一人でテント張ってて怖くないか?」の質問には「幕営場所によって違う・・・」と答えています。

そんな私がどうしても一人で泊まれないのが避難小屋です。避難小屋は管理人が居ないので人が多いと自分勝手な登山者の無法地帯化し小屋は大混雑になってしまいます。
しかし反面、自分以外に他に誰も居ない小屋では広くて良いな!と感じるよりもジメッとした小屋の暗さに薄気味悪さを感じて泊まるのを躊躇してしまいます。
以前は避難小屋に泊まる時はテントは持って行かなかったのですが、最近は避難小屋泊でもテントを必ず持って行きます。小屋が混雑している時はテントを持って外に出ます。また自分以外に泊まる人が誰も居ない場合は小屋の中にテントを張ってしまうか、外に張ります。
テントの中のあの限られた空間というのは心が落ち着きますが、広い小屋に一人という状況は何となく薄気味悪い物です。何かが闇の向こうに潜んでいるような感じがします。

いい歳をして誰も居ない小屋を怖がっているなんてあまりにみっともないのでこの事は人には内緒にしていたのですが、昨年、中央アルプスの摺鉢窪避難小屋に泊まった時、周りの登山者に訊ねてみると皆さん私と同じでやっぱり一人で避難小屋に泊まるのは抵抗があるということだったので内心安心したことがありました。
(注:山で一人で幕営する時はその前にホラー映画は見ないこと!
例えば
JUON/呪怨とか見ちゃだめです。)

山での怪談話は山仲間から聞いたりネットで見たりしますが、私自身は幸か不幸かお化けや幽霊と遭遇した事は一度もありません。
それでも長年山登りを続けていると中には「何だろう?」と首を傾げたくなることがありました。
幽霊とはなんら関係ないのかも知れませんがそんな体験を書いてみます。
実名で書こうかとも思いましたが色んな所に要らぬ迷惑がかかるといけませんので匿名にしました。

1) 東北のある避難小屋にて
百名山の一つになっている東北のある山に登った時のことです。
山頂からの下山途中に避難小屋がありました。
小屋の中に入ってみると小屋は最近建てられたものらしくまだ芳しい木の香りが薄っすらと匂っていました。
「あー良い小屋だな!今度はシュラフ持って泊まりに来ようかな!」と小屋の中を眺めていると小屋の中で休んでいた男性が「やめた方が良いよ、この小屋、出るよ!」出るよって、まさかあれじゃないだろうなー!と怪訝な顔をしているとその男性がポツリポツリと話し始めました。
男性の話を要約するとこんな話です。
この男性は地元の方なのですがこの小屋が出来た年の冬に仲間と泊まっていると、その日、山頂付近で遭難事故があり、夕方近くになって数人の捜索隊が小屋に入って来たそうです。遭難された方は既に亡くなっており、そのご遺体は翌朝明るくなって下ろすとのことでその夜は捜索隊数人と亡くなった方と一緒に寝る事になったそうです。
その夜は身近で起こった遭難事故の恐怖、目の前には亡くなった方が寝ているということで一睡も出来ずに朝を迎えたという事でした。
その事故の後、この小屋を利用していると仲間の数人が「見た!」と言い出したので、その後この小屋は昼間休憩するだけにしたそうです。

この話を聞いて数年後、インターネットを使い始めたのでこの小屋ことを検索してみたのですが、この男性から聞いた話のような遭難事故は見つけられませんでした。
こう言った幽霊話は誰かの造作だったり、たわいの無い話に段々と尾ひれが付いて大きくなったりした場合もあるのでしょうけれど真相は未だに分かりません。

2) 信州のあるテント場にて
私は山小屋でもテント場でも到着するのが4時頃と少し遅めです。この日もテント場に着いて見ると小屋に近い場所には既にテントが張られていて、空いている場所を探しているとドンドンと小屋から離れて行きました。
空いていたのは小屋から一番離れた場所でトイレが遠くなって嫌だな!と思ったのですがそれよりも、その場所というのが私が嫌いな木々の間でジメッとしていたのでテントを設営する前から憂鬱になってしまいました。
その夜、眠っていると物音で眼が覚めました。ドカドカと誰かがテントの周りを歩き回っている音がします。歩き回っている音は動物の足音ではなく登山靴の音で、どうやら2,3人の感じです。
時計を見ると夜中の11時です。こんな夜中に、しかもここは小屋から一番外れた場所です。こんな場所、こんな時間に誰か歩くだろうか?と考えている何かしらゾオーッとしたものを感じて全身じっとり汗ばんできました。
テントのファスナーを開けて外を確認すれば良いのでしょうが見てはいけないものがそこにいる感じがして怖くてそれが出来ません。
数分間、その足音は歩き回っていましたがやがてパッタリと聞こえなくなってしまいました。
その後、眠ろうとしたのですが興奮が収まらず朝まで寝返りを繰り返していました。
朝になって太陽が射して来ると昨夜の音は何だっただろうか?とは思いましたがきっと何かの聞き間違いなのだろう!とさほど気にならなくなっていました。

後日、偶然ある方のサイトで同じテント場、同じような体験の記述を見ることになりました。やっぱりあれは何だったのだろうか?と不快な記憶がよみがえってきました。
それ以後、このテント場はさけるように計画を立てようにしています。

3) 関東のある山小屋にて
山登りを始めた頃はよく友人の河本と山へ行ってました。
河本は人が多い山は好きではないのでその日向った山は関東でもあまり人気が無い山です、おまけに当日の天気予報は曇り。その夜、山小屋は私と河本と小屋番さんの3人だけでした。

夜、お酒を飲んで3人で雑談を交わしていたのですが、時間が9時になり、そろそろ寝ようかという事になりました。
河本が小屋の外にあるトイレへ出て行き、そして戻ってくるなり「誰かが登って来る!」と言い出しました。
3人で小屋の外に出ました。「あれっ、あの辺りでライトの光がユラユラ動いているのが見えたんだけど・・・」と河本が闇の一点を指差します。「でもあの辺りにも登山道があったんですね?ボッカ道ですか?」と小屋番さんへ訊ねますがもちろん答えは「無いですよ・・・?」
こんな夜中に登って来る登山者がいるだろうか?これは河本が酔っ払ってか?寝ぼけてか?どっちだろうと言いましたが河本は絶対見た!と言いはって聞きません。
3人でそれから30分程寝ずに待っていたのですがもちろんだれもやって来ません。
「僕達が起きて待ってますので、どうぞ先に寝て下さい!」河本のたわごとにこれ以上小屋番さんを付き合わせては悪いので先に寝てもらいました。
それから1時間待ってもやっぱり誰もやって来ません。何かの見間違いだよ!と河本を諭しても寝ようとはしません。酔っ払っているせいもあり私はとうとう諦めて先に寝る事にしました。

翌朝、4時に起きると河本は柱に寄りかかっていました。
外が明るくなったので二人で小屋の外に出て、河本が昨夜指差した辺りを見てみるとそこはうっそうとした雑木林が広がっているだけでとても人が歩けるような場所ではありません。
河本はどうしても見間違いではないというので小屋からほんの20メートルほど下の雑木林の中に二人で入っていったのですが人が歩いたような跡はまったく見つかりません。
朝食を食べると河本は死んだように眠りに落ちました。昼近くになってやっと河本が目を覚ました。当然この日の予定は変更になりそのまま下山する事にしました。

後日、この夜の話をすると「確かに見た、間違いない!」と河本は怒った表情で繰り返すだけです。
私は今も半信半疑なのですが河本はこんな嘘をつく奴ではないし、ましてそのために徹夜なんかするわけもありません。
河本が見た光は何だったんでしょうか?人魂?それとも遭難者のライト?
今にして思うとあの一夜は夢だったような気もします。ただ3人で見つめた闇の暗さだけは今も鮮明に心に残っています。

山で幽霊と会う方法 (2/2) へ続く

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