羊蹄山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:車)

◆ 2022年9月8日
半月湖野営場 (5:20) --- 5合目 (7:00/7:05) --- 7合目 (7:55/8:00)
--- 9合目 (8:40/8:45) --- 比羅夫コース分岐 (9:05) --- 山頂 (9:45/10:00)
--- 真狩コース分岐 (10:35/10:40) --- 比羅夫コース分岐 (11:30/11:35)
--- 9合目 (11:50/11:55) --- 半月湖野営場 (14:40)
山日記

天気予報では札幌の晴れが四日間続いている。
以前から登りたかった羊蹄山に登るチャンスに宿と飛行機の予約で慌ただしい朝となった。

羽田では今にも雨が降りそうな暗い曇り空だったのに山形辺りで徐々に雲が切れ始め新千歳に着く頃には真っ青な空が広がっていた。

新千歳から電車で一路、倶知安へ向かった。

今回の羊蹄山、ニセコアンヌプリ登山は当初テント泊を計画していた。
ところが五色温泉へのバスが土日しかないこと、半月湖野営場が使用禁止になっていること、休暇が短い事を踏まえると宿に泊まっての日帰り登山しか無理だった(それに北海道はヒグマの生息地なので登山口の駐車場などに無暗にテントを張るのも危ない気がした)。


新千歳から倶知安に向かう途中、小樽で乗り換える。窓にはランプが並び、ホームには石原裕次郎の歌声。

夕方6時に予約した倶知安のゲストハウス「旅つむぎ」に着いた。

ネットで安くて登山口への送迎をしてくれる宿を探した結果は「旅つむぎ」一択だった。
「旅つむぎ」はゲストハウスとして建てられた宿のため自炊室や2段ベットも使い心地が良く何不自由なくのんびり出来る宿だった。


夕方6時に倶知安駅に着いた。羊蹄山の山頂は雲の中で空には満月が輝いていた。

この日の客は僕の他にスノボーのインストラクター、ニセコ郵便局を作っている棟梁、広島から来た北海道一周中のライダー、それに名古屋から来た函館本線を撮りに来た撮鉄の学生の5人だった。
皆で酒を飲みながら談笑して気が付けばもう夜の10時、慌ててベッドにもぐりこんだ。


翌朝5時、宿のオーナーに比羅夫登山口まで車で送ってもらった。
オーナーの羊蹄山おすすめコースは羅夫登コースから登って真狩コースへ降るというものだったけど羅夫登コースをピストンすることにした。
「旅つむぎ」は宿泊代が\3500円と安いのに登山口までの往復送迎代が何と只なので僕一人のために羊蹄山を半周して真狩まで迎えに来てもらうことに気が引けてしまったのだ。

野営場のトイレが改装中なので下の駐車場までしか車は入れなかった。
下の駐車場で降ろしてもらい車道を3分ほど歩くと半月湖野営場に着いた。

野営場にも駐車場にも誰も居なくて森の向こうに羊蹄山が静かに佇んていた。
新築されたトイレはまだ木の香りを漂わせ、外壁はジャガード織みたいな模様になっていたので「珍しいデザインだな」と近づいてみるとそれは壁一面に10cmほどの茶色の蛾が無数に張り付いているためだと分かって思わず後ずさりしてしまった。

羊蹄山と書いて「ようていざん」後方羊蹄山と書いて「こうほうようていざん」ではなく「しりべしやま」と読む。
何んでぇ?疑問は残るがとにかく日本百名山の一つ、以前から憧れていた羊蹄山にこれから登るのだ。

登山届を書いていると登山口の横に「真狩コースでの熊目撃あり」の注意書きがあった。
羊蹄山は単独峰のため熊は居ないと言われているが念のため熊鈴を持って来て良かった。


半月湖野営場。左の茶色い建物が新築されたトイレで杭の向こう側がテント場(テント場の左に水道)。

白樺の森の中、フキだらけの登山道を緩やかに登って行く。
この一年、コロナ禍のため山登りを自粛していたので何とこれが一年ぶりの山登りになった。
最近、感染者が減っていないのに不要不急の外出も控えなくて良い、屋外でのマスク着用も無し、と急に縛りが緩くなったので気兼ねなく山に向かえるようになったのは嬉しいけれど昨年、三浦半島の低山にもマスクして登っていたのは一体何だったんだ?と思うと無駄な努力をしてたようで何だか素直に喜べない。
そういえば昨夜、宿の近くのスーパー「コープさっぽろ」に弁当を買いに行ったら客の半数はマスクをしていないのには驚いた。確かに北海道は広いけれどスーパー店内は密状態なのでは?心配になった。

羊蹄山を下から眺めた時に円錐形の端正な山だなと思った、と同時に山頂までのコースタイムでは4時間半となっているが3時間ぐらいで登れそうに見えた。
それが登ってみるとやっぱり「まだ2合目、まだ3合目・・・」と思うほど中々進まない。

登山道は低木と笹の間を縫うように進んでいて山頂は全然見えない単調な登りだ。
振り返るとたまにニセコアンヌプリの稜線が空の青に薄っすらと縁取られて見えた。


竹と灌木に閉ざされた登山道をひたすら登って行く。振り返るとニセコアンヌプリが見える。

火山の特徴は地質の違いから安息角が一定ではなく裾野ではなだらかで山頂に近づくほど勾配が急になり、その反り返りが円錐形の山容を一層端正な形に見せている。
5合目辺りから傾斜が段々と急になり登山道の周りは灌木が目立つようになったけど山頂が見えることはなく、ただ足を交互に動かすという単調な作業の繰り返しだった。

3合目辺りを登っていた時、下からガシャガシャとうるさいほどの鈴の音が段々と迫ってくるのを感じた。
そして4合目辺りでその熊鈴をいっぱい付けた男性にあっという間に追い越されてしまった。
追い越されたことは別に気にしないけれどその男性は10分歩いては休憩するといったペースで登っているので追い越したその男性が上で休憩しているのを僕が再び追い越すということを繰り返えさなければならず、何だか二人のオジサンが狭い登山道で必死に追い越しバトルをやっているみたいになってしまった。
歩くペースは人それぞれなので文句を言えないけれど絶えず後ろからプレッシャーをかけられているみたいで落ちつかなかった。


カラフルな碁盤の目。倶知安の市街の横にパッチワークみたいに広がるのは何かの畑だろうか?。


4合目辺りから登山道は雨に浸食された溝になった。その溝の淵にはびっしりの苔。

登山口の野営場から見えたきり一向にその姿を見せなかった山頂が9合目でやっと見えた。

9合目から花畑の笹原を登って行くと火口の淵に登り付いた。

羊蹄山ってこんな山だったの?
そこには草紅葉の黄色とハイ松の緑が色鮮やかなでっかいお鉢が広がっていた。
ここまで単調な登りが続いたためこの急な変化はどこか別天地のようだ。
これまでネットで散々見たはずなのに・・・やっぱり山は来て見なきゃ分からないもんだな!
全く予想外の景色に出会えたことに興奮してしまった。


9合目からやっと眺望が開け山頂付近が見えた。それに期待通りの天気だったのも嬉しい。


比羅夫コース分岐点まで登ると目の前にデェーンとカラフルな火口が広がった。

お鉢を時計回りに巡って行くと風が強くて何となく落ち着かない。
振り返るとニセコアンヌプリの山頂は雲の中にあって見えず、山腹の傷跡のようなギザギザのスキー場にだけ光が当たっていた。

最近のニュースでニセコや比羅夫は外資系によるホテルや別荘が連立していると言っていたけれど山頂から見ると倶知安だけに市街地が広がっていてニセコや比羅夫はリゾート地には思えないほど緑の中にあった。

こんなに色鮮やかな火口って他にあったっけ?
火口は大抵火山岩などの砂礫に埋め尽くされた無表情な窪みだ。
鷲羽池とも五色沼とも違うし、似たよう火口を思い返そうとしても心当たりがない。
せっかくだから火口下まで降りてみようと思ったけれど踏み跡らしきものは見当たらなかった。


見た瞬間にドキッとさせられた羊蹄山の火口。だってこんなのがいきなり目の前に現れたら興奮するだろう。


火口下のボコボコが笹倉湿原みたいだったけど乾燥しているみたいだから苔じゃないんだろうな。

お鉢巡りをしている人達皆さん熊鈴の音が大きい。
今回、北海道に来る前を購入したモンベルの熊鈴は室内で鳴らしてみると少しうるさいほどだったのに実際山で鳴らすともう少し大きな音でも良かったのでは?と思えるほど周りの人は派手に鈴を鳴らしていた。

大きな岩を乗り越えるように道を歩いて行くとその先、一際高い岩の中に山頂があった。
山頂周りの岩が風よけになっているので標柱を囲むように多くの人が休憩していた。
 
山頂での謎が一つ!
山頂のどこにも社が見当たらないのだ。地図を見直してみてもゼロ合目辺りにも神社は見当たらない。
信仰対象の山では麓の神社がゼロ合目で山頂が10合目なのだが羊蹄山では登山道の目安として合目表記してあるのだろう。


山の北側には雲海が広がっていた。山頂まで上がって来ないように祈るしかない。


山頂の標柱横に並んで記念写真を撮りたかったけれど周りに多くの登山者がいるので恥ずかしくて出来ない。


山頂からみた京極町も道路は真っ直ぐ。

山頂を過ぎると道が一層険しくなった。
危険なほどではないけれど手を使って岩をよじ登らなければならない箇所もあった。

真狩コース分岐の先に小屋跡があったけど残った基礎セメント部がせっかくの羊蹄山の景観を台無しにしてしまっている。
残骸を全て撤去するかここに小屋を新たに立て直すかしないとお鉢の素晴らしい景観があまりにも勿体ないと思う。


真狩コース分岐からみたお鉢の様子。場所によって地面の色が違っている。

旧小屋跡から更にお鉢を回って行く(小屋跡から直接、比羅夫コースへの分岐へ行く道もある)。
実はここから先の道はお鉢回りをしていた時から「庭園みたいな場所があるな」とずっと気になっていた場所なのだ。

少し窪地になった登山道は黄色に色付いた草紅葉に彩られ、風に小さく揺れる紅葉した葉先が静寂の中で道案内をしているように見える。


旧山小屋跡の先は登ってから気になっていた場所でまるで空中庭園みたいだ。


ハイ松の緑が火口の紅葉に映えます。万華鏡みたいに表情を変える火口を何度も撮ってしまう。

以前、北海道の山旅をやった時に登り残した山があった。その一つがここ羊蹄山だ。
その羊蹄山にこの夏こそは登ってやろうと天気予報を見ていたけど晴れが続かない、休日と晴れが重ならない。
そうして天気予報とライブカメラをダラダラと眺める日々を過ごしているうちに9月になってしまった。
火口を淵を歩く人の陰は青空に押しつぶされそうに見える。
あーっ、とうとう羊蹄山にやって来たんだなぁー!
限りなく透明な憧憬の中に今、自分は居るのだ!
早い秋に設えられた自然のさざめきの中でポツンとそう思った。


あと一週間遅かったら・・・と思わせた草原の紅葉。どこもここも綺麗です。


何となくだけど、おかっぱ頭の草間彌生を思い出してしまった。自然がデザインした造形美。

今日は「下山してから電話してもらえば迎えに行きます」と宿のオーナーからありがたいお言葉を頂戴しているので時間を気にすることもなくこの庭園をのんびりと散策が出来るのだ。
おまけに登山口まで車のお迎えがありそのまま宿まで運んでくれるという今まで公共交通機関ばかりを使用して登山していた僕にとってはVIP待遇ものなのだ。
こんなの贅沢な登山が出来るなんて・・・たまにはこんなホテル利用の山登りも良いかもと思う。
この素晴らしい景色と自由時間の相乗効果に誰も居なければ思わずキツネダンスを踊っていただろう。


足元にも小さな秋は広がっていた。こんなのがちょこっとあるのが嬉しい。


地図には載っていなかったけど途中から比羅夫コース分岐へ行く道があった。

天気予報で「午後になると風が収まる」言っていたけどまさしく予報通りになった。
うねりの無くなった青空には鱗雲が広がり秋の爽快な空気に山全体が包まれていた。

何で降りようとする時になって急に風が止むかな?!悔しくてお鉢をもう一周しようかとも思ったけどちろんその元気は残っていなかった。
それに他に人が下山している姿を見ると「自分もそろそろ下界に戻らなければ・・・」自然がそっと耳打ちしているかのようにそう思う。


お鉢巡りもそろそろ終わりです。山頂には予想以上の素晴らしい景色が広がっていました。

後ろ髪を引かれる思いで比羅夫コースを降って行く。
登っている時は目と道の距離が近いのでそれほどの傾斜は感じなかったけれどこうして降っていると登山道を見下ろすことになるので傾斜が急であることを実感してしまう。

このままどんどん降っていると足の指先を痛めそうなので思わず靴ひもを締め直してしまった。

下山も長くて単調な道だった。
たまに木々の間から覗く麓の風景にも残りの高度差を感じてしまうだけでもう景色を楽しむことは出来ない小さな人間になっていた。
2合目になってようやく道の勾配が緩やかになった時には正直ホッとさせられた。

「2合目に着いたら電話ください。丁度、登山口に着いた時にお迎え出来ます」と宿のオーナーに言われていたので2合目に着いた途端に電話した。
本当は半月湖の散策もしたかったけど予想以上に下山で体力を消耗してしまってもうその気力も無くなっていた。

羊蹄山はその山容から蝦夷富士とも呼ばれいるが富士山と違ってどの方向から見ても端正な円錐形をしていた。
火山には珍しく山頂までぎっしりと植物に覆われているので山全体が豊かな緑色に包まれていることが秀麗な山容を一層際立たせている。
それに標高があまり高くなく麓の景色が身近に見えるため里山の自然と一体化している感じがする山だった。
羊蹄山は本当に良い山だなぁーと思う。ただ急傾斜の登りはどうにかならないもんか?それも登る程にどんどん勾配がきつくなっていくのだ(涙)。


9合目から鱗雲の下の山頂を振り返る。ここから登山口の間は山頂が見えないのでここでお別れなのだ。

天国だぁー!
宿に着くと直ぐにシャワーを浴びて着替えた。これはテントや山小屋では味わえない快適さだ。

水族館のサメはどうして同じ水槽にいる魚を食べないのか?
それは飼育員から餌をもらっているのでお腹は空いておらずわざわざ体力を使って魚を襲うことはしないのだ。

棟梁からヒグマに遭遇した時の話を聞いた。
棟梁は山菜採りに行って何度かヒグマと遭遇したことがあるそうで熊は人を襲うのが好きな動物では無く、むしろ向こうも人と遭遇したくないらしい。
だから熊鈴などでこちらの存在をアピールすれば熊の方から離れていくということだった。
一番怖いのは藪などでお互いの存在に気が付かずに鉢合わせした時らしい。
棟梁も山菜採りに行ってわずか1mの距離で熊と鉢合わせしてしまってその時は絶対目を離さないようにして(目を離すと「こいつ弱いな!」と熊が攻撃してくる)静かに後ずさりして難を逃れたということだ。


シャワーの後、宿の2Fにある談話室の窓から羊蹄山を眺める。あの頂にいたのだぁー!とのんびり。

そんな話をしていたら東京から来たという3人組が到着した。
夫婦とエジプト旅行で知り合ったという女性の3人だった。
定年後に登山を始めたという3人は明日、僕と同じくアンヌプリに登るらしいのでオーナーが各希望を聞いて送迎の時間を調整するらしい。

3人はこの宿の常連客で冬はスキー、冬以外は山登りと旅行で定年後の人生を謳歌しているとのことで色々と面白い話を聞かせてもらった。
3人は料理も好きだということで持参したコメを炊いて明日の昼食のおにぎりを作り始めた(何と3人で12個なのだ)。
睡眠不足だった僕はキッチリ9時になるとベッドに入った。

ウトウトする意識の向こうで棟梁と撮鉄の会話はどこか遠い昔話のように聞こえた。


宿「旅つむぎ」の玄関前からの羊蹄山。空にはオリオン座が輝いていた。
ニセコアンヌプリ へ 続く
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